2026年 03月 02日
「平瀬アスカ展 黄泉の棲家」3月7日(土)より


3月7日(土)から始まる「平瀬アスカ展 黄泉の棲家」の出品物です。
ふっくらと円みを帯びた甕に、四方が反り上がる屋根形の蓋。どこか建築のような佇まいを見せるこの造形には、内と外を隔て、静かに守るという意志が感じられます。表面には、時間が堆積したかのような鉄釉が重なり、土の気配と火の記憶が、重厚な質感となって現れています。
一見すれば蓋付きの壺ですが、「祈りの造形」を掲げる平瀬アスカさんにとって、それは単なる用具ではなく、魂や想いを納めるための器として構想されたものです。古来、壺や甕は生活の道具として用いられた後、やがて蔵骨器となり、此岸と彼岸をつなぐ存在へと役割を変えてきました。その記憶が、この造形の奥底に静かに息づいています。
もっとも、使い手の解釈は自由です。米や穀物を収め、日々の暮らしの中で用いることもまた自然な関わり方でしょう。用途を定める前に、この器にどのような思いが込められているのかに耳を澄ますこと。その心の往復こそが、平瀬さんの作品を自分のもとへ引き寄せる喜びにつながるのではないでしょうか。
鉄釉蓋付甕 径21.5/高さ21.5cm
平瀬アスカ展 黄泉の棲家
2026年3月7日(土)~14日(土)
作家在廊日 3月7日
営業時間 11時~18時 最終日は17時迄
ギャラリーうつわノート 埼玉県川越市小仙波町1-7-6
経歴
1996年 京都市生まれ
2022年 沖縄県立芸術大学 工芸専攻 卒業
2022年 高知県にて陶芸修行
2024年 京都市左京区にて築窯
2026年 同地にて作陶
解説
平瀬アスカ展「黄泉の棲家」は、生と死、現世と幽世の境に息づく祈りのかたちを、現代に問いかける展覧会です。
1996年京都生まれの平瀬さんは、沖縄県立芸術大学で陶芸を学び、2024年に京都左京区に築窯、現在も同地で制作を続けています。小学生から高校までバスケットボールに打ち込み、インターハイを目指す選手として身体を鍛えました。また大学在学中には二年間休学して東京で役者の経験もあります。身体性と精神性の近さを知る彼女にとって、陶芸とは技法以前に全身で世界を受け止める行為なのでしょう。
沖縄時代に出会った厨子甕(ずしがめ/ジーシガーミ)は、琉球地域で洗骨後の遺骨を納めるために用いられた蔵骨器であり、黄泉の国と現世をつなぐ役割を担ってきました。当初は強く意識することのなかったこの器が、コロナ禍や身近な人の死を経て、死者との向き合い方に深く心を打たれ、制作の大きな転機となります。亡き人のために家をつくり、近くに置き、何度でも会えるようにする。生と死を切り分けず、共に暮らし続けたいという切実な思いから「祈りのうつわ」が生まれました。
現在は近くの山から掘り出した原土を用い、自らの内から湧き出るエネルギーで形づくり、その仕事に責任を引き受ける覚悟が静かに刻まれています。古代中国の明器や、日本中世の経筒・五輪塔もまた、極楽浄土への祈りを託した焼き物の姿でした。かつて焼き物は、生と死、祈りと畏敬の境界をつなぐ役割を担っていたのです。
自然界には人の目に見えぬ力が満ち、言葉にできずとも、私たちの身体はそれを感知してきました。そうした無形の力を受け止める感性が、平瀬さんの造形には息づいています。合理性と効率が優先される現代にあっても、人は実用だけのために物を選ぶわけではありません。そこには必ず、理屈を超えて「つながる」感覚があります。
「黄泉の棲家」に並ぶかたちは、古代から連なる祈りの記憶と現代の個人的な切実さとが重なり合う場所です。失われつつある原初の感覚を、静かに呼び覚ます場となることでしょう。どうぞ平瀬アスカさんの思いが形となった作品に心をひらいて向き合ってみてください。店主


by sora_hikari | 2026-03-02 18:00 | 平瀬アスカ

