2025年 12月 05日
「市岡和憲 煎茶道具展」7日目-2「市岡和憲 煎茶道具展」7日目-2
















「市岡和憲 煎茶道具展」の7日目-2。
昨晩の月を思わせる神々しい気配をまとった磁土茶注「蒼月の露玉」。今展で唯一、銘を付した作品です。
市岡さんは長年、煎茶道具をつくる職人として歩む一方で、作家として「伝統工芸展」への出品を静かに続けてきました。請負ではなく、あくまで自身の表現と技量を世に問うための創作。その公募展では大作や技巧の競演が主流となる中、急須で勝負し続けることは容易ではありません。それでも研鑽を重ね、入選を重ねてきた道程が、この銘ある一作へと結晶しています。
今展の中でも上位の価格帯に位置づけられている理由は、作り手自身がこの作品に託した意味の深さゆえでしょう。とはいえ、お抹茶碗の世界と比べれば、煎茶器の価値はまだ控えめなものです。明治期はむしろ煎茶道具の方が高い社会的ステイタスを帯びていたこと、そして昭和初期、国力の伸長とナショナリズムの高まりとともに茶道の位置づけが再編されていった歴史を振り返ると、現在、煎茶や中国茶の精神性が再び注目される潮流の中で、価値の地図そのものがゆっくりと書き換わりつつあるのかもしれません。
その時代の転換点にあって、市岡和憲さんが煎茶道具の価値をリードする意義は大きいように思います。
会期は明日、12月6日(土)17時までとなりました。展示品は少なくなりましたが、凝縮された世界観はなお息づいています。どうぞ足をお運びください。
84.茶注「蒼月の露玉」(共箱)
胴径8.3/高さ9.9cm/容量190ml
詳細はオンラインストアでご覧ください。
【市岡和憲展オンラインストア】
販売期間:12月6日(土)21時まで
市岡和憲 煎茶道具展
2025年11月29日(土)~12月6日(土)
営業時間 11時~18時 最終日は17時迄
ギャラリーうつわノート 埼玉県川越市小仙波町1-7-6
経歴
1968年 京都市嵯峨野の和菓子屋に生まれる
1988年 京都府立陶工職業訓練校修了
1989年 八代村田亀水に師事
1996年 京都府美山町にて開窯
2013年 単室薪窯築窯
2017年 中国 宜興で紫砂急須の技術研修
2025年 現在、京都府美山町にて作陶
解説
京都の山あい、茅葺きの里として知られる美山町。その静寂の中で、煎茶道具を作り続けているのが市岡和憲さんです。SNSやギャラリーで作品を目にする機会が少ないだけに、初めて工房を訪ねたときは「見つけた!」という喜びに満たされました。今の時代はなかなかそういう作り手も少ないと思います。
京都市嵯峨野の和菓子屋に生まれ、幼い頃から「人の記憶に残る仕事をしたい」と志した市岡さん。京都府立陶工職業訓練校を経て、煎茶道具や中国古陶磁を得意とした八代村田亀水氏(1927–2018)に師事し、七年間の修行を重ねました。1996年に美山で独立開窯し、2013年には単室薪窯を築窯。さらに2017年には中国・宜興にて紫砂急須の研修を行うなど、煎茶文化の源流をたどりながら研鑽を重ねています。師匠や家元の仕事や取引店への卸しを中心に、これまで手掛けた急須は三万点を超えるといいます。その数は単なる量の記録ではなく、一点一点に積み重ねてきた精進の証でもあります。
市岡さんの茶道具は、機能的な造形や装飾的な華やかさとは異なる、文人趣味の古格ある奥ゆかしさに支えられています。技巧を誇ることなく、しかし茶席における品格を保つその姿には、京都の深い煎茶文化と、茶の湯を支えてきた精神が静かに息づいています。このたび隠れ里の仙人のような市岡さんを川越にお迎えし、茶注(急須)をはじめ、涼炉、湯沸かし、茶入、茶巾台、茶托、茶合、茶通など、独自の煎茶趣味の世界観で統一された道具の数々をご紹介いたします。静かな美と深い精神性が息づく、市岡和憲さんの煎茶道具の世界を、ぜひご高覧ください。店主


by sora_hikari | 2025-12-05 17:49 | 市岡和憲展

