2025年 10月 06日
「池田優子展 地殻の詩」3日目



「池田優子展 地殻の詩」の3日目。
本日より池田優子展オンラインストアの準備を進めております。明日の夕刻にはプレビューする予定です。詳細はあらためてご案内します。
磁器土でありながら柔らかな印象をたたえるのは、轆轤ではなく手びねりによって形づくられるためです。掌の動きや指先の圧がそのまま表面に残り、焼成の炎のなかでわずかに溶けては、静かな表情へと変わっていきます。白磁の肌には、砂浜に指で描いた跡のような痕跡が残り、波に消える直前の記憶をそっと封じています。硬質な白磁でありながら、作品は有機的な気配をまとい、潮に洗われた石のように静かな生命を湛えています。池田優子さんは、自然の生成に寄り添いながら、物質が自ら形を得ようとする瞬間をすくい取っているようです。
池田優子展 地殻の詩
Yuko Ikeda: Poetry of the Earth’s Crust
2025年10月4日(土)~11日(土)
営業時間 11時~18時 最終日は17時迄
ギャラリーうつわノート 埼玉県川越市小仙波町1-7-6
プロフィール
1973年 大阪市生まれ
1996年 米サンディエゴでグラフィックデザインを学ぶ
1999年 独学で陶芸を始める
2000年 自作を扱う器店を自営する(5年半)
2007年 陶芸家として活動
2025年 大阪市東成区のアトリエにて制作
解説文
岩肌を纏ったような白磁。その表面には幾層にも重なる複雑なマチエールが宿り、光や影の加減によって異なる表情を見せます。手びねりによる有機的な造形は、陶芸の定石に沿うというよりも、絵画や彫刻の感覚に近く、形そのものが感性の軌跡となります。ペースト状の釉薬を幾度も重ね、まるでキャンバスに筆を走らせるように形を刻む。その行為は立体的な絵画とも呼べる試みであり、地殻の詩(うた)を紡ぐ営みでもあります。
陶芸とは、地殻を化学変化させて形を与える仕事です。構成要素は限られていても、組み合わせや扱い方によって詩情や気韻が立ち上がる――池田優子さんは、その感覚を言葉の韻を踏むように再構築し、作品に地殻の記憶を宿らせます。彼女の視覚的な原風景には、室戸岬の奇岩がもたらす荒々しさと静けさ、家族と歩いた海辺で拾った貝殻や石の記憶があります。
アメリカでグラフィックデザインを学び、帰国後、父の陶芸趣味に触れて独学で作陶を始めた池田さんは、制作のみならず器を手渡す場を自ら持つことで、作品を客観的に見つめる視座を育みました。デザイナーとしての構成力と、自然への憧憬が交差することで、器は単なる容れ物を超え、地殻の詩を映す小さな風景となっていきます。本展では、岩石を纏った白磁の新作を中心に、従来の銀彩の器を加え、多層的な表情と静かな力強さを湛える作品が並びます。物質の手触りと詩情の境界、そのあわいに息づく池田優子さんの世界をご堪能ください。店主


by sora_hikari | 2025-10-06 18:08 | 池田優子展

