2025年 10月 05日
「池田優子展 地殻の詩」2日目








「池田優子展 地殻の詩」の2日目。
複雑に移ろう潮の流れや夜空を漂う雲のような表情を湛えた池田優子さんの楕円皿です。青と灰が溶け合う景色は、まるで深海の底から光が滲み出るようです。釉薬の偶然性と意図的なペインティングが交錯し、器の上にひとつの宇宙が生まれています。
池田さんはアメリカでグラフィックデザインを学んだ経歴をもち、平面構成にも深い造詣があります。今も美術館を巡ることを楽しみにしており、ウォーホール、ラウシェンバーグ、トゥオンブリーといった20世紀アメリカ美術の巨匠たちに強い関心を寄せています。
ご自身も「陶芸というより絵画や彫刻に近い感覚で制作している」と語るように、この皿には素材の枠を超えた自由な創造性が息づいています。平面的な皿でありながら、色の重なりや釉の溶け合う質感が、ミクストメディア的な深みを生み出します。静けさの中に動きを秘めたこのプレートは、どんな料理をも新しい風景へと導く、絵画的な一枚です。
池田優子展 地殻の詩
Yuko Ikeda: Poetry of the Earth’s Crust
2025年10月4日(土)~11日(土)
営業時間 11時~18時 最終日は17時迄
ギャラリーうつわノート 埼玉県川越市小仙波町1-7-6
プロフィール
1973年 大阪市生まれ
1996年 米サンディエゴでグラフィックデザインを学ぶ
1999年 独学で陶芸を始める
2000年 自作を扱う器店を自営する(5年半)
2007年 陶芸家として活動
2025年 大阪市東成区のアトリエにて制作
解説文
岩肌を纏ったような白磁。その表面には幾層にも重なる複雑なマチエールが宿り、光や影の加減によって異なる表情を見せます。手びねりによる有機的な造形は、陶芸の定石に沿うというよりも、絵画や彫刻の感覚に近く、形そのものが感性の軌跡となります。ペースト状の釉薬を幾度も重ね、まるでキャンバスに筆を走らせるように形を刻む。その行為は立体的な絵画とも呼べる試みであり、地殻の詩(うた)を紡ぐ営みでもあります。
陶芸とは、地殻を化学変化させて形を与える仕事です。構成要素は限られていても、組み合わせや扱い方によって詩情や気韻が立ち上がる――池田優子さんは、その感覚を言葉の韻を踏むように再構築し、作品に地殻の記憶を宿らせます。彼女の視覚的な原風景には、室戸岬の奇岩がもたらす荒々しさと静けさ、家族と歩いた海辺で拾った貝殻や石の記憶があります。
アメリカでグラフィックデザインを学び、帰国後、父の陶芸趣味に触れて独学で作陶を始めた池田さんは、制作のみならず器を手渡す場を自ら持つことで、作品を客観的に見つめる視座を育みました。デザイナーとしての構成力と、自然への憧憬が交差することで、器は単なる容れ物を超え、地殻の詩を映す小さな風景となっていきます。本展では、岩石を纏った白磁の新作を中心に、従来の銀彩の器を加え、多層的な表情と静かな力強さを湛える作品が並びます。物質の手触りと詩情の境界、そのあわいに息づく池田優子さんの世界をご堪能ください。店主


by sora_hikari | 2025-10-05 18:00 | 池田優子展

