「岩下賢一 漆工展 古新相生」7日目

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岩下賢一 漆工展 古新相生」の7日目。

肩の線が優美に立ち上がる、白漆仕上げの瓶子です。もともとは古作を再生したものですが、朱塗が多い古作に対し、淡く重なり合う白で仕上げた点に、岩下さんの独自の美意識が表れています。

瓶子は本来、神前に捧げる酒器として用いられ、中国の梅瓶を模した古瀬戸の灰釉陶器にもその形を見出すことができます。姿は多様で、ふくよかに丸みを帯びたものから、肩を張り出して力強さを示すものまでさまざまです。その中で岩下さんが選んだこの瓶子は、全体の均衡が美しく、数ある古作からこの一点を見出した時点で、すでに「再生」と「自作」の融合が始まっているといえるでしょう。

自作と再生、その境界は実際には曖昧です。漆器の産地では、木地師が木地を挽き、下地、上塗り、蒔絵や螺鈿といった加飾まで、分業によって成り立つことが少なくありません。木地の形を最終的に決めるのは作家自身であるものの、その多くは古典的な椀や器形に基づいています。一方で、古作を自ら選び、表層を研ぎ澄まし、改めて自らの視点で塗り直す行為もまた、作ることと変わりありません。

すべてを一貫して手掛けることに対する評価は確かにありますが、それは単なる労働の量ではなく、美意識をどこに通わせるかにこそ意味があります。古作の中に美を見出し、それを現代の言葉で蘇らせることは、自らゼロから作ることと同じ営みなのです。

会期は明日、9月27日(土)17時までとなりました。まだ数多くの作品をご覧いただけます。どうぞ最終日までご来店を心よりお待ちしております。

33.木地白塗瓶子  Φ20/H28cm
75.⽊地根来塗瓶⼦  Φ20/H28cm

【岩下賢一展オンラインストア】
https://utsuwanoteshop.stores.jp/
販売期間:9月27日21時まで

岩下賢一 漆工展 古新相生
2025年9月20日(土)~27日(土)
営業時間 11時~18時  最終日は17時迄
うつわノート 埼玉県川越市小仙波町1-7-6

経歴
1983年 埼玉県川越市生まれ
2005年 桑沢デザイン研究所デザインを学ぶ
2008年 建築事務所にて商業空間に携わる
2016年 輪島漆芸技術研修所にて漆や蒔絵を学ぶ
2020年 漆芸家 室瀬和美氏に師事
2021年 塗師として独立
2025年 長野県富士見町にて制作

解説文
ものづくりには、手の技術と同じくらい、完成形を見極める「眼の力」が深く関わっています。どこに美しさを見出すかは、時代や空間、道具との取り合わせによっても変わり、また作り手が積み重ねてきた経験や感覚によっても異なります。その人が見てきたもの、触れてきたものが、自然と作品に現れるのです。

長野県富士見町で漆工を手がける岩下賢一さんに、昨年に続き展示会をお願いしました。前回は「再生(リボーン)」をテーマに、古道具や古い漆器の塗膜を剥がし、新しい表情を与える作品を中心にご紹介しましたが、今回は同様のアプローチに加え、木地から自ら手がけた作品も登場します。荒彫りの黒漆が力強い合鹿椀、紙縒り(こより)を漆で固めて丹念に編み上げた籠など新たな作品が見どころです。

さらに古物を再生した小家具や盆、椀など、彼が何を選んだのか、前回との比較も興味深いでしょう。岩下さんはこれまで、空間デザイン、盆栽、古家具の修復、蒔絵研ぎ出しの修行など、幅広い経験を積んできました。その経験が「塗り重ねる」技術だけではなく、木や素材の持ち味を活かす引き算の感覚を育んできたのです。決して立派な骨董ではなく、むしろ簡素で実直な古物を自ら選び取り、剥がし、塗り、研ぎ出し、あるいは塗らずに残す。その逆説的なアプローチは、未完成の中に潜む美しさを呼び覚ます行為でもあります。

本来、漆と木地の間には無数の段階があり、どこまで塗るか、どこで止めるかは作り手の意図によって決まります。剥がすことから始める逆方向の営みは、むしろ塗ることの意味を浮かび上がらせ、その過程の中にある未完の美しさをも教えてくれます。何より岩下さんの造形にはそれが置かれる空間でどう見えるのかというバランス感覚によって完成形が取捨選択されているのです。

今回のテーマは「古新相生(こしんそうせい)」。古きものと新しきものが互いに響き合い、共に生きる姿を漆工品として表現します。選び抜かれた古物の再生品と、新たに生み出された自作の器たちが並ぶ空間は、きっと静かな調和と深い余韻を感じさせてくれることでしょう。どうぞこの機会に岩下賢一さんの漆工の世界をご堪能ください。皆様のご来店を心よりお待ちしております。店主


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by sora_hikari | 2025-09-26 18:00 | 岩下賢一展2025

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