「岩下賢一 漆工展 古新相生」9月20日(土)から

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9月20日(土)から始まる「岩下賢一 漆工展 古新相生」の出品物です。

堂々たる風格をたたえる合鹿椀(ごうろくわん)。岩下賢一さんが自ら木地を刳り、下地、上塗りに至るまで、一貫して仕上げた一椀です。合鹿椀とは、石川県能登町(旧柳田村)の合鹿地区で生まれた漆器椀のこと。起源は江戸時代前期に遡るとされますが、明治時代に入ると漆器や陶磁器の隆盛に押され、一時は生産が途絶えた“幻の器”でもあります。しっかりした高台が特徴で、膳を床に置いて食事をしていた時代に、器を安定して持ちやすくするための機能的な工夫でした。かつての食事様式に合わせた実用的な形でありながら、現代にあってはむしろ力強さが際立ち、この土着的な根の強さが、今あらためて時代に要請されているように思います。岩下さんの手によって甦ったこの椀に、ぜひ会場で直接触れ、その重みと息吹を感じていただければ幸いです。

合鹿椀 :径14.5/高さ10cm

岩下賢一 漆工展 古新相生
2025年9月20日(土)~27日(土)
作家在廊日 9月20日
営業時間 11時~18時  最終日は17時迄
うつわノート 埼玉県川越市小仙波町1-7-6

経歴
1983年 埼玉県川越市生まれ
2005年 桑沢デザイン研究所デザインを学ぶ
2008年 建築事務所にて商業空間に携わる
2016年 輪島漆芸技術研修所にて漆や蒔絵を学ぶ
2020年 漆芸家 室瀬和美氏に師事
2021年 塗師として独立
2025年 長野県富士見町にて制作

解説文
ものづくりには、手の技術と同じくらい、完成形を見極める「眼の力」が深く関わっています。どこに美しさを見出すかは、時代や空間、道具との取り合わせによっても変わり、また作り手が積み重ねてきた経験や感覚によっても異なります。その人が見てきたもの、触れてきたものが、自然と作品に現れるのです。

長野県富士見町で漆工を手がける岩下賢一さんに、昨年に続き展示会をお願いしました。前回は「再生(リボーン)」をテーマに、古道具や古い漆器の塗膜を剥がし、新しい表情を与える作品を中心にご紹介しましたが、今回は同様のアプローチに加え、木地から自ら手がけた作品も登場します。荒彫りの黒漆が力強い合鹿椀、紙縒り(こより)を漆で固めて丹念に編み上げた籠など新たな作品が見どころです。

さらに古物を再生した小家具や盆、椀など、彼が何を選んだのか、前回との比較も興味深いでしょう。岩下さんはこれまで、空間デザイン、盆栽、古家具の修復、蒔絵研ぎ出しの修行など、幅広い経験を積んできました。その経験が「塗り重ねる」技術だけではなく、木や素材の持ち味を活かす引き算の感覚を育んできたのです。決して立派な骨董ではなく、むしろ簡素で実直な古物を自ら選び取り、剥がし、塗り、研ぎ出し、あるいは塗らずに残す。その逆説的なアプローチは、未完成の中に潜む美しさを呼び覚ます行為でもあります。

本来、漆と木地の間には無数の段階があり、どこまで塗るか、どこで止めるかは作り手の意図によって決まります。剥がすことから始める逆方向の営みは、むしろ塗ることの意味を浮かび上がらせ、その過程の中にある未完の美しさをも教えてくれます。何より岩下さんの造形にはそれが置かれる空間でどう見えるのかというバランス感覚によって完成形が取捨選択されているのです。

今回のテーマは「古新相生(こしんそうせい)」。古きものと新しきものが互いに響き合い、共に生きる姿を漆工品として表現します。選び抜かれた古物の再生品と、新たに生み出された自作の器たちが並ぶ空間は、きっと静かな調和と深い余韻を感じさせてくれることでしょう。どうぞこの機会に岩下賢一さんの漆工の世界をご堪能ください。皆様のご来店を心よりお待ちしております。店主


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by sora_hikari | 2025-09-16 18:00 | 岩下賢一展2025

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