2025年 06月 13日
「伴哲生 錫器展 Van Zinn」7日目


















「伴哲生 錫器展 Van Zinn」の7日目。
伴哲生展は明日6月14日(土)17時までの開催です。伴さんのこれまでの仕事を一望できる構成となっており、実際に錫器を手に取ってお選びいただける貴重な機会です。ぜひお運びください。
銅や真鍮、鉄といった金属は、建材や日用品などを通じて私たちの生活の中でも比較的目にする機会が多い素材ですが、「錫」に触れる機会は案外少ないのではないでしょうか。燗付け用のちろりや酒杯、ビールタンブラーなど、飲料器で見かけることはあるものの、陶磁器やガラスの器に比べればまだ馴染みが薄いかもしれません。
今回も錫の金属としての特性、たとえばイオン効果による抗菌作用などの効能を紹介してきましたが、伴さんの錫器の魅力は決してそれだけにとどまりません。可塑性に優れた銅や真鍮、あるいは硬質で頑強な鉄に比べ、錫は約232℃という比較的低い温度で溶ける「柔らかい金属」です。この特性は、扱いにくさと同時に他にない表現の幅をもたらします。
言うなれば、錫は不思議な立ち位置の素材です。そこにどのような美しさを見出し、どう表現するか。まさに伴さんの真骨頂が問われるところです。錫器を専門に手がける作家が珍しい中で、伴さんのアプローチは際立っています。
伴さんの作品には、自ら錫の端材を溶かし、板材から制作するという工程ゆえに生まれる独特の風合いがあります。工場で成形されたものとは異なる、どこか甘やかな表情を持つ金属。陶土を思わせる柔らかさや、粒度の粗さ、成形時に生まれる揺らぎすら、作品の一部として受け入れながら、用具としての芯はしっかりと保たれている——たとえば、カップや花入れにその姿がよく表れています。
金属でありながら、あえて研磨仕上げを避け、粗さやムラといった“視覚的なノイズ”を、素材の魅力として積極的に引き受けていく。その表情は、まるでモノクロ映画のような無彩色の渋みと、無言の存在感を湛えた道具のようです。この素材に対する解釈こそが、伴哲生の錫器——VAN ZINNの真価だと感じます。
以前、ある和紙作家の名刺に「和紙って美しい」と記されていたことがありました。その言葉からは、素材への愛情と尊敬、そして作家としての揺るぎない自信が感じられ、とても印象に残っています。伴さんに代わって「錫って美しい」と、あらためてその素材そのものの魅力をお伝えしたいと思います。
【伴哲生展オンラインストア】
販売期間:6月14日(土)23時まで
伴哲生 錫器展 Van Zinn
2025年6月7日(土)~14日(土)
営業時間 11時~18時 最終日は17時迄
ギャラリーうつわノート 埼玉県川越市小仙波町1-7-6
経歴
1982年 大阪府堺市生まれ
2004年 大阪芸術大学 金属工芸コース卒業
2004年 錫器製造会社勤務
2012年 作家として活動開始
2018年 奈良県生駒市に拠点を移す
2025年 現在同地にて制作
解説
Van(伴)が手がけるZinn(錫)──それが “Van Zinn”。少々強引な語呂合わせではありますが、しっかり記憶して頂きたく、このタイトルに。さて奈良県生駒市に工房を構える伴哲生(ばん・てつお)さんは錫器の作家です。大阪芸術大学にて金属工芸を学び、卒業後は錫器メーカーで研鑽を積みました。2012年に独立して以降、錫という素材に向き合い、独自の表現を探求し続けています。錫は柔らかく上品な銀白色の光沢を持ち使い込むほどに深みが増す素材です。不純物を吸着する特性から日本酒や焼酎の味をまろやかに整えるとも言われ、古来より「水を清める金属」として知られてきました。抗菌性にも優れ食品や飲料に対しても安心して使用できる点も錫の大きな魅力です。また酸化や錆に強く、銀器のように黒ずみにくいため日常の食卓にも取り入れやすい素材といえるでしょう。伴さんの作品はこうした錫の機能性と伝統を土台としながらも、そこに新たな美的感性を重ねています。低い融点を活かし自ら端材を溶解して板材をつくるところから製作を始めるという工程には素材への敬意と探究心が宿っています。その板に刻まれた揺らぎや痕跡をあえてそのまま活かすことで、整然としながらも、どこか陶器のような柔らかさや、土のような温もりを感じさせる器が生まれます。金属でありながら、手にした瞬間に伝わるやわらかさ──その両義性こそが、伴さんの錫器の真骨頂です。当店にとって錫器の展示は今回が初の試みとなります。しつこいようですが、哲(鉄)を生きるという名前を有する金属の申し子、伴さんが作る“Van Zinn”。運命のように出会ったこの錫器の世界をぜひご堪能ください。店主


by sora_hikari | 2025-06-13 18:00 | 伴哲生展

