2025年 05月 20日
「稲吉オサム展 渥美古窯人生劇場」5/24より


5月24日(土)から始まる「稲吉オサム展 渥美古窯 人生劇場」の出品物です。
稲吉オサムさんによる「山茶碗タワー」。山茶碗は、猿投古窯をはじめとする中世の窯で、平安時代から室町時代にかけて常滑や瀬戸周辺などで大量に焼かれた日常雑器とされています。
稲吉さんが取り組んでいる渥美古窯でも多くの山茶碗が焼かれ、その陶片が現在も数多く出土しています。そうした遺物の中には、重ね焼きされたままうまく剥がれず、塔のように積み重なった状態で窯の周辺に廃棄された山茶碗も見つかっています。稲吉さんの「山茶碗タワー」は、まさにそれを彷彿とさせる作品で、20段に加え最上部の内側に1個、計21個を意図的に積み上げて焼成したものです。しかしこれは焼き損じではなく、あえてこの姿を狙って制作されています。
その理由は何でしょうか。視覚的なインパクトや造形のユニークさはもちろんですが、それだけではありません。作品には、かつて陶器が廃棄された場所「物原(ものはら)」に漂う“もののあわれ”の美意識が込められているように思えます。この感覚は、松尾芭蕉の有名な一句「夏草や 兵どもが 夢の跡」にも通じるものがあるのではないでしょうか。
稲吉オサムさんの焼き物に通底する意識が、栄華の後に訪れる退廃の中にこそ、美しさを見出そうとするまなざしが感じらるのです。
山茶碗タワー20段+1 高さ22/径16cm
稲吉オサム展 渥美古窯 人生劇場
2025年5月24日(土)~31日(土)
作家在廊日 5/24
営業時間 11時~18時 最終日は17時迄
ギャラリーうつわノート
埼玉県川越市小仙波町1-7-6
経歴
1976年 愛知県豊橋市生まれ
2002年 愛知県立窯業技術専門校修了
2002年 美濃焼の窯元で学ぶ
2007年 豊橋市にて築窯
2025年 現在同地にて渥美古窯再現に取り組む
解説
愛知県豊橋市の稲吉オサムさんによる2回目の個展です。「渥美古窯」とは渥美半島の田原市から豊橋市にかけて広がる地域にかつて約500基もの窯が存在したとされる謎多き古窯群です。鎌倉時代の末期を最後におよそ200年にわたる操業を終えたこの古窯の存在は今なお十分には解明されていません。
稲吉さんは豊橋市で生まれ育ち地元の高校に進学したもののわずか2か月で中退。その後は職を転々とする日々を送っていました。転機が訪れたのは20代半ば、瀬戸の訓練校で陶芸と出会いそのまま窯元で修業を積んだ後再び豊橋へと戻ってきます。その生い立ちや陶芸との出会いも波瀾万丈ですが、常に「人生全て何かが違う」と違和感に苛まれつつ出会ったのが地元に存在していた「渥美焼」だったのです。
答えを求めていた稲吉さんにとって、それが足元にあったというのは、まるで運命の導きのような出来事でした。産地や技法が今なお明らかでない渥美焼を追い求める中、稲吉さんは地元の博物館や窯跡に足繁く通い、実物や陶片を通して研究を重ねていきます。その過程で、彼はますます渥美古窯の焼き物に惹き込まれていきました。謎が多いからこそ、まるでミステリー小説のようなワクワク感があったのかもしれません。
しかし未だ広く知られていない渥美焼に取り組むということは、支えてくれる市場が存在しないことも意味します。日本六古窯と同時期に存在していたにもかかわらず、評価の枠組みや流通の基盤は整っておらず、活動は孤独にならざるを得ません。本来、長い歴史を持つ陶芸の産地では、古典様式の技術に支えられた評価軸が存在し、それに応える形で作家も育ちます。しかし渥美焼には、そのような「土台」がありません。まさにゼロからの挑戦です。
稲吉さんの工房には、昭和レトロの映画ポスターやレコードが並びます。一見懐古趣味にも見えますが、そこにはかつての銀幕のスターや、心を動かすメロディーが息づいています。その姿からは、映画のような人生劇場を歩んできた稲吉さんの生き様が感じられます。流行に流されることなく、自ら信じた道を貫く姿勢がそこにあります。
現在は耐火煉瓦で組まれた薪窯を使用していますが、将来的には渥美古窯と同じ完全地下式の穴窯の再現を目指し土を掘り進めています。しかし途中で大雨により水没したり崩壊したりと試練の連続。そんな困難にも屈せず、稲吉さんの「渥美古窯」への挑戦は続いています。
今回の展示では、渥美焼という未だ知られざる焼き物に触れるだけでなく、未知を手探りし続ける稲吉さんと共に、「渥美のミステリー」を“今この瞬間”進行形で体験することができます。中でも割れた壷や崩れた壷といった破壊的な力を宿す作品はぜひ実物をご覧いただきたい逸品です。どうぞ稲吉オサムさんの渥美焼に触れ、その奥深い世界をご体感ください。店主


by sora_hikari | 2025-05-20 18:33 | 稲吉オサム展2025

