2023年 09月 15日
「阪本健 展 アンフォルメル」7日目
「阪本健 展 アンフォルメル」の7日目。会期は残すところあと1日になりました。最終日の9/16(土)は17時で終了させて頂きます。
写真は大阪府堺市にある阪本健(たけし)さんの工房です。高齢者向け施設の敷地内に建つログハウス風の建屋を使っています。落ち着いた周辺環境への配慮もあり、煙や音などの制約の中でどれだけ自分の表現が出来るかを逆算し、工夫を重ねた器であるとお聞きしました。
デザイン専門学校を卒業してから丹波の茶陶系作家(市野信水氏)のもとで6年間修業しました。そこでは礼儀や知識といった陶芸家としての基本的なことを厳しく学んだそうです。
1999年26歳で独立してから、下請け仕事やバイトを重ねながら27歳で百貨店の平場で展示の機会を得ました。その頃はまだ焼き物と言えば、産地に根差した「〇〇焼き」が望まれていた頃で、丹波で修業した経歴から当然のごとく丹波焼作家としての作風が求められたそうです。しかし視覚的にその様式の系譜にはない阪本さんの焼き物が理解されるにはまだ十分な時代ではありませんでした。
2006年33歳に堺市に居を移し、今の制作環境に合わせたうつわづくりに傾倒していきます。使う土は堺市でも産出する泉州土を基本に使い、その上に白泥がけ(粉引)による複雑な表情を生み出していきました。画家の父親の影響もあり、小さい頃は焼き物よりも絵を見ることが好きで、自分の中には色のストックが多いと言います。それが今の足し算の仕事に繋がっています。
現在の外見と物腰の柔らかさからは想像できませんが、十代の頃はメタル系バンドでベースを担当。紫色の髪を立てて激しいステージもあったとか。その源流と繋がるように内側から湧き起こってくるパッションを吐き出すような「粉引」は、阪本さんの潜在意識にある心の叫びのようにも思います。
陶芸に携わって約30年が過ぎようとしていますが、決して順風満帆な陶芸家人生ではなかったようです。常に経済的にもぎりぎりで数多くのアルバイトをし、中には危険も伴う防護服を着て浸炭炉のオーバーホールを行う作業員の経験もあったとか。とにかくすべてが生きていくための地道な努力の積み重ねてであったそうです。
ようやく陶芸家として安定してきたのは、ここ数年のこと。SNSを通じた個人や飲食店の注文仕事、コロナ禍に高まった観葉植物需要に伴う植木鉢など。華々しく著名店で展示会を重ねてきた訳ではありません。それゆえに流行に媚びず、自分のスタイルを崩さす、自分を支持してくれるひとりひとりのお客様への丁寧な対応、注文仕事を大切にしています。
初めてみた阪本さんのインスタグラムの印象と言えば、激しい色遣いのうつわ、そして恐そうなプロフィール写真(以前)だったがゆえに、初めて工房に伺った際には、その丁寧で柔和な人柄とのギャップに驚きました。実のところ話を伺えば、ご自身のルーツは丹波であり、一見素朴でありながら存在感のある器でありたいとのこと。今の釉薬の表現もその心情が根幹にあり、強調するばかりでなく「シンプルで存在感のある器」にも向き合って行きたいそうです。
この秘めたる思いをお聞きすると、自分の足元を見つめてきちんと立ってきた実績と、体の内側から湧き起こるパッションが、今までも、そしてこれからも阪本さんのうつわを成していくのだろうと思います。
【阪本健展オンラインストア】
9/13 20:00~9/17 23:00迄
阪本健 展 アンフォルメル
Takeshi Sakamoto Art informel
2023年9月9日(土)~16日(土) 会期中無休
11:00~18:00 最終日は17時迄
ギャラリーうつわノート
埼玉県川越市小仙波町1-7-6
Takeshi Sakamoto Profile
1973年 大阪府寝屋川市生まれ
1993年 なんばデザイナー学院卒業
1993年 丹波焼 市野信水氏に師事
1999年 兵庫県篠山市にて独立
2006年 大阪府堺市に工房を移す
2023年 現在同地にて制作
by sora_hikari | 2023-09-15 17:20 | 阪本健展