2023年 06月 15日
「稲吉オサム展 渥美古窯レクイエム」6日目-3
「稲吉オサム展 渥美古窯レクイエム」の6日目-3。
稲吉オサムさんの渥美蓮弁文壷2選。高さ43cmの大きな壷と高さ26cmの中サイズの2点が出品されています。壷の肩に掛かかる艶を帯びたオリーブ色の自然釉。その下に透ける仏教のモチーフとなる蓮弁文。平安から鎌倉にかけて焼かれた渥美古窯が、当時の武士や寺院に向けて作られた宗教具であったことを示す壷です。
一般的に渥美焼を代表するのが、東京国立博物館に慶応義塾大学から寄託された「秋草文壷」です。1942年に川崎市で発掘され、中には骨が納められていました。戦後1950年に文化財保護法が新たに公布され、陶磁器部門の国宝指定の第1号となったのが、渥美の「秋草文壺」でした。水がめや種壷のような中世の実用具とは一線を画し、仏教に根差す峻厳かつ憂愁な佇まいの異彩を放つ逸品です。
桃山以前の中世の壷が好まれるのは、作者名を持たない道具としての隷属的な謙虚さと、作為なき過程で生まれた土と炎による偶発的な景色でしょう。当初より美術品となるべく作られたのではなく、後の時代に美を見出されたことも意味を深くしています。このような中世の壷の見立てにあって、渥美の壷は、人が滅した後に浄土に行くためのツールであり、人間を超越した存在に繋がる媒体として、仏に捧げる役割を持っていたことが他の中世の壷に比べて特異な点と言えるでしょう。
稲吉オサムさんの蓮弁文壷を見るうえで、渥美焼とされる国宝「秋草文壷」との関係性を踏まえておくと、彼が渥美を再興させたいと臨む姿勢が、より一層尊く思えるのです。
稲吉オサム展 渥美古窯レクイエム
by sora_hikari | 2023-06-15 17:53 | 稲吉オサム展