2023年 06月 01日
「梶原靖元展 焼物漫遊記」6日目-3
「梶原靖元展 焼物漫遊記」の6日目-3。
梶原靖元さんの五合庵茶碗(径15.7 高さ6.6cm)です。
新潟県燕市の国上寺の山中に佇む小さな草庵「五合庵」は、寛政5年(1793)から20年間、良寛さんが過ごし、多くの漢詩や歌を生み出し、著名な「天上大風」などを揮毫したことで知られています。
梶原さんがその地を訪ね、その周辺で採れる陶石を使って焼いたのが、この五合庵茶碗です。特に焼き物産地ではないところですが、そこで見つけた山の石を焼き物になると読み、器胎と釉薬に用いました。元々古唐津を石ものと解釈し、堅く焼き締まった唐津を実証してきた梶原さんにとって、この五合庵茶碗は地域は異なれど、唐津でやってきた仕事を形を変えて体現した茶碗と言えるでしょう。
茶碗を手にして、上から覗いた見込みや目元まで掲げて胴部を見ると、青白く発色した斑のある釉溜りが景色を作り、茶碗の見どころとなっています。五合庵は山中にありますが、そこから数キロも行けば、日本海をはさんだ佐渡島が見え、その海を渡る風や潮を写したごとく、かの地の情景を彷彿とさせる茶碗に仕上がっています。
さて何ゆえに梶原さんはこの地に立ったのか。本年1月に投稿された梶原さんのインスタグラム(@kajiharayasumoto)の記事を見れば「やっと訪れた五合庵、床を掃き礼拝、座禅そしてお酒を酌み交わす。」と書かれています。聞けば魯山人も認める良寛さんの書が好きだから、とのこと。確かに良寛さんの書は風通しのよい線で、これ見よがしの強さがなく、肩の力の抜けた無為自然の境地を感じます。
しかしその言葉の行間から読み取れるのは、生涯にわたって寺を持たず、貧しいながらも清らかな生き方を通した良寛さんへの憧れ、あるいはそこに重ね合わせる梶原さん自身があるからではないでしょうか。人は歳を重ねて成熟すると共に様々な澱が蓄積していくものです。時に捉われ、逡巡し、迷い、憤り、紆余曲折を経てやがて達観していく。目を閉じ、思いを馳せ、救いを求め、我欲を振り切るための行脚。良寛さんの清貧な生き様に教えられることは、梶原さんに限らず誰しもあるでしょう。
あくまで邪推でしかありませんが、この茶碗を見ると、どこかしら吹っ切れた印象もあり、吟遊詩人のごとく旅と共に歌をうたい、遍路のように心を浄化しようとした梶原さんの成果のようにも思えるのです。作家への支持は、その人の作りし物の作品としての物理的な評価が大半を占めますが、一方でその作家の思想を理解し、何ゆえにこれが生み出されたのか、という心情に思いを馳せ、作家の句読点を読み解き、共有する喜びもあるのではないでしょうか。
【梶原靖元展オンラインストア】
公開:6月4日(日)23時まで
梶原靖元展 焼物漫遊記
2023年5月27日(土)~6月3日(土)会期中無休
営業時間 11:00~18:00 最終日は17時迄
ギャラリーうつわノート
埼玉県川越市小仙波町1-7-6
プロフィール
1962年 佐賀県伊万里市生まれ
1980年 唐津焼太閤三ノ丸窯に弟子入り
1986年 京都 平安陶苑にてクラフトを習う
1989年 大丸北峰氏に師事して煎茶道具を習う
1997年 佐賀県唐津市相知町に穴窯築窯
2023年 現在、唐津市相知町佐里にて作陶
by sora_hikari | 2023-06-01 18:20 | 梶原靖元展2023