2023年 03月 10日
「森田春菜展 知覚の隙間」 7日目-2
「森田春菜展 知覚の隙間」の7日目-2。
森田春菜展の会期は明日3/11 17時までとなります。
2005年頃に知った森田春菜さんの作品を始め、当時同時多発的に出現した古道具(骨董でなく)や工芸(美術系でなく)から派生したアートピースは、それまでのアートの立ち位置を変えたように思います。美術館やアートギャラリーよりも、器や古道具を扱うところが発表の場となり、それらを求める人も個人の生活の場に軸足を移しました。アートのように投機的な価値を目指すのではなく、自分尺度で理解し所有することができました。美術史的コンセプトよりも感性が重視され、また作品然とした主張を抑制し、人為的な気配を消そうとしていたと思います。
例えばモノ派がソリッドな材料と向き合い、自己表現を排した点では重なるところがあるものの、アートという文脈上で語られるよりも、雑貨的感覚の線上で解釈できる平易さも特徴的でした。石ころや貝殻、森で拾った木の実のように、なんでもないけれど、自分にとって意味のある傍らにあるもの。肩書も文脈も必要としない自由な選択。アート作品としての強度がないと思われるふしもありますが、むしろ自分自身の内面でおこるアート体験は、美術館などで価値判断された固定的なものから解放され、手元にある大切さに気付かせてくれました。
そう、それは「気づき」であったと思います。教科書的でないアート。ガラスケースの向こうにある立派なものでなくても、むしろ個人の気持ちに直接染み渡ってくる存在でした。如何に我々は既成概念に捕らわれていたのか。その意識の解放は古道具坂田さんを始め、同様に「うつわ」も同じような立ち位置に変革した時期だったと思います。ファインアートの分野から見れば、甚だサブカル的だと思いますが、アートガロ系とでも言うか、雑貨系アートと言うか、これもまた漫画やアニメ同様に日本独自の土着的な意識から発生した新たな文化だと思います。そもそも明治以前の日本では生活の中に混然一体として工芸品・書・花があったと思えば、ようやく本来の姿に戻ったという見方も出来るでしょう。
個人的体験でお名前を挙げるなら、岩田圭介さん、岩田美智子さん、恩塚正二さん、森田春菜さん、渡辺遼さん、熊谷幸治さん、大村剛さん、吉田次朗さん、冨沢恭子さん(布偶)、前川秀樹さん(像刻以前のロロカロハルマタン)たちの活動、そして四月の魚、ブリキ星、ギャラリーロバ屋さんなど不思議な空気を醸し出すお店も忘れられません。しかし未だ一定のコミュニティの中での理解に留まることも事実でしょう。美術行政側からの評価も、美術評論家による文脈化もされていないのが現状です。そしてこの「気づき」のうえに再生産されるもの増え、「これもアリなんだ」と裾野を広げる一方で、その意味が定義されないまま流行りとして拡散してしまったように思います。こういうものを「言葉」で語ることに冷たい視線を感じつつも、言葉にしないと消えてしまいそうな危機感もあります。
当時のムードから現在はかなり変化したと思います。森田さんのように継続的に発表する作家の作品をあらためてどう伝えるのか、ギャラリー側の責任を感じつつ、明日最終日を迎えます。必需品ではなく余剰的ではあるが、自分にとって意味のあるもの。そこが重要です。肩書に捉われずに見る眼を信じつつ、脳内でおこるクオリアを体験して頂きたいと思います。
【森田春菜展オンラインストア】3/11 23:00迄
森田春菜展 知覚の隙間
Haruna Morita Exhibition Invisible Objects
2023年3月4日(土)~11日(土)
営業時間 11時~18時 最終日は17時迄
ギャラリーうつわノート
埼玉県川越市小仙波町1-7-6
略歴
1981年 東京生まれ
2004年 多摩美術大学 美術学部 工芸学科 陶プログラム修了
2006年 作家活動開始
2023年 東京都三鷹市在住
by sora_hikari | 2023-03-10 17:56 | 森田春菜展