「森田春菜展 知覚の隙間」開催のお知らせ

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3月4日(土)~11日(土)に開催する「森田春菜展 知覚の隙間」のご案内です。

森田春菜さんの作品を初めてみたのは、2006年に西荻のブリキ星さんで行われた個展でした。朽ちた欠片のような陶の作品で、白化粧を施されたそれらは、何かの破片や海辺で拾ったもののように、それ自体が意思を持たない抜け殻のように見えました。それが店内全体を使ってインスタレーションのように展示されていたことを覚えています。

当時は古物からインスピレーションされたものを作る作家が出始めていて、古道具坂田さんの影響もあると思っていました。一方で陶のオブジェという流れもあり、特に森田さんが学んだ多摩美の陶芸は、実用の器を作るよりも、油画教育の流れで、陶をファインアートの一部の素材とする教育がされていたと思います。それまでの陶のオブジェと言えば、誰も見たことがない表現や実験的な技法、あるいは桃山陶の価値観を壊そうと試みるダダイズムのようなアプローチなど先鋭的な表現によって自己を主張することが多く、その発表の場はアート系ギャラリーや美術館を志向することが多かったように思います。

それに反し、森田さんの作品は如何に意味を抜いていくか、作り手の気配を消していくか、といった禅の思想を現代に置き換えたような概念が根底にあったと思います。発表の場も、坂田さんの系譜にあたるブリキ星さんでしたし、ご店主も仰々しく意識を押し付けてくることなく、そういう若い人たちを受け止め、自在に発表の機会を与えるわくわくするギャラリーでした。あの頃は確かにそういう潮流があって、うつわの概念の変化とともに、アートも陶芸も肩書のいらない個人の意識という場に軸足を移しつつあることを実感していました。もともと般若心経の色即是空/空即是色など、すべてに実体はなく空無である、あるいは空こそに実体であるといった禅問答のような思想は東洋的な概念であり、己を滅して無を尊重することは、そもそも日本的美意識の本質にあるのかもしれません。

さて、あれから17年以上もの月日が流れ、ものづくりの現場では再び意味を付加しようとしているように見えます。ミニマルから象徴主義的になり、それは装飾や技巧や土着的な精神性など、傾向として視覚的にも情緒性に訴えるものが増えているように思います。今回の出品にあたって、森田春菜さんは信楽にある陶芸の森にアーチストインレジデンスとして在籍し制作に臨んでいます。世界をフィールドにする作家が多く在するこの場で制作しようとする意識はなんなのか。案内状に掲載する作品を送ってきた荷物に入っていた手紙には、量子力学や植物の螺旋運動などにも触れてあって、従来とは違う意識の変化を感じました。量子と波動など、物質と物質の隙間にある存在しないものの実存を証明する動き。目に見えないものを感じる力。それはオカルトではなく、物理として真理の究明が科学の世界では行われています。

今回の出品物を見て、モノとモノの隙間にあるもの、人の心の隙間に納まるもの。そんな思いが湧きました。そもそもこういうものは言語化できない感情を呼びこすことが役割でしょうし、存在は虚ろであっても空っぽではなく、そこに自分の気持ちを入れる受け皿でもあるでしょう。2023年に於いて森田春菜さんの意識がどう変わり、どうやって我々の知覚の隙間を埋めてくれるのか、とても楽しみです。どうぞ皆様もご高覧頂ければ幸いです。店主

森田春菜展 知覚の隙間
Haruna Morita Exhibition Invisible Objects 
2023年3月4日(土)~11日(土)
作家在廊日 3月4日
営業時間 11時~18時 最終日は17時迄
ギャラリーうつわノート
埼玉県川越市小仙波町1-7-6

略歴
1981年 東京生まれ
2004年 多摩美術大学 美術学部 工芸学科 陶プログラム修了
2006年 作家活動開始
2023年 東京都三鷹市在住

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by sora_hikari | 2023-02-26 18:00 | 森田春菜展

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