2022年 11月 26日
「森口信一展 我谷盆と五様の彩り」8日目
「森口信一展 我谷盆と五様の彩り」の8日目。会期は明日11/27 17時までとなります。
森口信一さんの京都西山アトリエを訪ねた際の様子です。なかなかすさまじい状態の工房ですが、この中で我谷盆は作られます。アトリエでお仕事の話を聞いている折々に、書籍や収集品に埋もれた中から我谷盆の関連資料を見せてくれるのですが、きちんと場所を把握していることに驚きます(それだけ混沌としているとも言えるのですが笑)。
森口さんは京都芸大卒の1952年生まれ。今年古希を迎えます。我谷盆との出会いは京都の黒田乾吉木工塾(人間国宝・黒田辰秋氏の息子さん)で漆や木工を学んでいる際に、乾吉さんの奥様から森口さんの作品は我谷盆に似ていると言われたことがきっかけになりました。それから様々な資料を調べながら我谷盆を研究し、実際に作り始めたのが2000年、つまり22年前です。22年というと長い年月ではありますが、森口さんの年齢を考えると我谷盆は47歳から手掛けたことになりますから、意外と後年になってからなのです。
昭和中頃に全国各地で民芸再発見機運の高まった頃に、黒田辰秋さんが我谷盆の美に注目し、その復興を奨励した作り手は、金沢の故・林竜人さん始め他にもいらしたようですが、その後継承する人は一旦途絶えていたようです。そのような状況下であらためて我谷盆の良さを実践的に再生し唱えてきたのが森口信一さんなのです。
今は森口さん以外にも多くの木工作家さんが我谷盆、あるいは我谷盆スタイルの木工品を手掛けており、いわば様式化もしていますが、そのほとんどの作り手が木工品のone of themとして我谷盆を作っているのに対し、本歌に倣って栗木の割板を生木のまま彫る我谷盆に特化した作家は森口信一さん唯一なのです。自ら「我谷盆バカ」と名乗るように、森口さんを知る人なら、その仕事ぶりと情熱をもって納得することでしょう。
さて我谷盆の良さはどこにあるのか、と聞かれれば、その飾らぬ素朴な佇まいであり、丸鑿の痕を意匠としても実用としても残した粗野な造りにあるでしょう。実は森口さんは2014年に脳梗塞を患い、右手の握力をほとんど失いました。木工家にとって利き腕の力を失うことは致命的に思えますが、むしろその手を庇いながら彫る我谷盆は益々良くなったとおっしゃいます。それは作り込み過ぎない、道具としてその分をわきまえた我谷盆の本来の内面性を捉えるために「足るを知る」ことだったのかもしれません。
脳梗塞で倒れる前日の夜は、奇しくももスーパームーンが空に輝き、その月に向かって「自分を成長させて欲しい」と願ったそうです。この運命的な出来事を負とせず、自らの「力」として前向きに仕事をされていることに、ただただ頭が下がります。
我谷盆を多くの人に継承したい。自らの技術も全て開示し、方々でワークショップや石川県山中の「風谷アトリエ」には毎月通って塾生に教え、体験教室も開いています。今回の展示会でも、お客様にとにかく我谷盆のことをよく説明されます。この情熱こそ、森口信一さんを支える力であり、我谷盆を作り、そして伝えることが「天命」としているのです。力強く、飾らず、そして自制的でもある我谷盆の姿は、森口信一さんの自刻像なのかもしれません。
京都アトリエで我谷盆の粗彫りの作業を撮らせて頂きました。
森口信一 我谷盆制作風景
森口さんの我谷盆の作り方が掲載されている本
「グリーンウッドワーク 生木で暮らしの道具を作る」










【森口信一展オンラインストア】
販売期間:11月27日 23時まで
Sales period: Until November 27, 23:00 (JST)
森口信一展 我谷盆と五様の彩り
2022年11月19日(土)~27日(日)
日渓美佐江・藤田毅・小原ゆかり・柿野茜・橋爪香代
ギャラリーうつわノート
埼玉県川越市小仙波町1-7-6
森口信一略歴 Shinichi Moriguchi
1952年 北海道生まれ
1977年 京都市立芸術大学美術学部彫刻科卒業
1987年 黒田乾吉氏より拭漆の講習を受ける
2000年 我谷盆の研究・制作を始める
2016年 石川県風谷町に「風谷アトリエ」開設
2022年 京都西山アトリエと石川県風谷アトリエで制作

by sora_hikari | 2022-11-26 18:35 | 森口信一展