2022年 10月 31日
「田淵太郎展 月の陽炎」開催のお知らせ
夜空に浮かぶ月は太陽の光を柔らかく反射し、古来から人々の心を優しく包んできました。しかしその表面に近づけば隕石痕を残す荒涼とした死の世界が見えてきます。薪窯の中で強い炎を受けた田淵太郎さんの白磁の大鉢(表紙)を俯瞰すれば、静けさと激しさを併せ持つ月のような印象を受けます。
地球の質量の30%を占める鉄分はほとんどの土に含まれ、その影響で焼き物は褐色を帯びてきました。それゆえ汚れのない白色の焼き物を作ることは人々の長年の夢だったのです。中国宋代の定窯白磁、元代の景徳鎮白磁、李朝期の白磁、そして江戸初期に有田で初めて作られた白磁は堅牢かつ清廉で、物理的用途だけでなく人の精神性をも映す役割があり、白磁は降灰で汚れぬように匣鉢に入れて綺麗に焼くことが肝心でした。
白い焼き物は白く焼く。田淵太郎さんの白磁は、この常識に反し薪窯の直接焔による窯変を見どころとする逆転の発想のうえに成り立っています。発表当初は白磁を汚すことに否定的な意見もありましたが、田淵さんの狙うところは、むやみに見どころを強調するのではなく、激しさと静けさのバランスを一品づつ取捨選択している点にあります。白は白ゆえに美しくもあるが、焔の痕跡との対比をもって白の意味を際立たせる効果もあるでしょう。
田淵さんの白に揺らぐ焔の痕は、まるで陽炎のごとく立ち昇り、白の余白との間で幽玄な世界を見せてくれるのです。弊店で4回目となる田淵さんの展示会となります。今回も月の陽炎のごとく心を揺さぶる作品が並ぶのを楽しみにしています。店主
田淵太郎展 月の陽炎
2022年11月5日(土)~11月13日(日) 会期中無休
作家在廊日 11月5日
営業時間 11:00~18:00 最終日は17時迄
ギャラリーうつわノート 埼玉県川越市小仙波町1-7-6
略歴
1977年 香川県生まれ
2000年 大阪芸術大学工芸学科陶芸コース卒業
2007年 香川県高松市に穴窯を築窯
2022年 現在、同地にて制作
写真作品
窯変白磁花鉢 径42・高さ17.5cm
窯変白磁面取花入れ 径13・高さ31cm
by sora_hikari | 2022-10-31 09:00 | 田淵太郎展2022