2022年 06月 27日
「佐古馨展 Rolling Stone」開催のお知らせ
佐古馨展 Rolling Stone
Kaoru Sako Exhibition A rolling stone gathers no moss.
2022年7月2日(土)~10日(日) 作家在廊日 7月2日
営業時間 11時~18時 最終日は17時迄
挿花 片桐功敦
ギャラリーうつわノート 埼玉県川越市小仙波町1-7-6(地図)
佐古馨さんは、木・鉄・石など複合的な素材を使いながら制作する立体造形家です。昨今は木を旋盤加工した「うつわ」づくりにも取り組んでいます。今展は木の器を主にした工芸寄りの展示会になります。ポスター写真の大きな皿・鉢・花入を見れば分かる通り、素材そのものをソリッドに活かすプリミティブな造形が特徴的な作家です。
工房にて
昨年、今展に向けて奈良県生駒郡の佐古さんの工房を訪ねました。まず驚くのはその場のすさまじさ。足の踏み場もないほど累々と積み重なる木材の残骸。苔むし放置されたかつての作品と思しき敷地と一体化した物体。ここは一体なんなのかと、数多く訪ねた他の作家の製作現場と照らし合わせて、その類例なき様相に形容すべき言葉が見つかりませんでした。ただ「汚い、、、」(言っちゃった)。いや、それを通り過ぎて作者のメッセージにも思えてしまう倒錯した気持ちにさえなります。しかしその場で長年の経歴を聞き始めると、この無秩序な現場は佐古さんそのものの人生を象徴するのだと妙に納得したのです。
絵描きからデザイナーへ/20代前半
生まれは大阪市の下町・大正区。教員の家庭で育ちました。大学では農学部専攻。在学中に本格的な社会人山岳会に入りましたが、山で遭難して2年ほどでやめ、その反動で海のある沖縄に通い始めました。卒業後に会社に就職するものの一か月で退職し、石垣島で2年間民宿の手伝いをしました。その頃出会った島で暮らすヒッピー崩れのレゲエ&絵描きの人たちの影響を受け、自ら絵を描き始めます。大阪に戻り、画材屋でバイトの傍ら、夜間のデザインスクールに通う生活。そこで紹介されて事務機器メーカーで図面をトレースする仕事を得ますが、トイレの個室でトイレットペーパーを並べて昼寝しているのが見つかり、そのまま会社は終了、20代前半。
版画から金属彫刻へ/20代後半~30代半ば
今度は中央市場で朝4時から干物を扱うバイトをこなしながら、美術館が主宰するデッサン教室で石膏や人体デッサンの基礎を学びます。その頃に蓄えた資金で銅版画用のプレス機を買い、版画教室を始めました。当初は生徒も多く順調で、版画作品も公募展で入賞しはじめ、作品が人気になったのが20代後半。ところが教室の設備トラブルや生徒の減少、画廊との金銭感覚の違いによって、版画に対する熱がすっかり冷めてしまい教室を閉鎖したのが30代半ば。それにめげずビル管理の仕事をしながら、溶接技術を学び金属の彫刻作品を手掛け始めます。
ニューヨークで石彫刻/30代後半から40代前半
彫刻家として活動していた39歳にめでたく結婚。関西フィルの楽譜の編集の仕事をしていた奥様が文化庁の派遣でNYフィルに行くことになり、5ケ月の子供を一緒に連れてニューヨークへ。同地の美術学校に入り石の彫刻を学びます。その頃SOHOにあった抽象彫刻作家たちのギルドに参加。当時日本人は少なく栄えある会員になりますが、奥様の派遣期限と共に約1年間のニューヨーク生活を一旦終えました。帰国後に交通整理のバイトの帰りに道端の粗大ごみから古い木箱に入った古伊万里の揃いの皿を拾います。それを骨董屋に持ち込み高額で売れた資金を手に、再び彫刻家として活躍すべく、今度はニューヨークへ単身で渡り、現地で個展を開催しますが、芳しい評価は得られぬまま、半年で帰国することになります。
うつわとの邂逅/40代半ばから現在
今度は屋根ふき職人をしながら彫刻を作っていましたが、友人のドラム奏者を通じてアフリカのジャンベという木の太鼓に出会い、それを作りたくなって木工旋盤を手に入れ、これが木の器づくりのきっかけになります。屋根ふき仕事の後は宅配のバイトをしていましたが両親の介護のために職を辞めことにし、この時、かつて器が売れたことを思い出し(古伊万里の発見)、器作家として自活するべく木の器をフリーマーケットに出品し始めます。やがて世の中は暮らしの器ブームが到来。徐々に木工作家として認知されるようになり、現在に繋がっています。
以上、佐古さんの工房でお聞きした話を書き連ねましたが、まとめようがないほど変化の連続で、ただメモを取り続けました。今展のタイトルをローリングストーンとしたのも、転がり続ける石のような人生を表現したいと思ったからです。"a rolling stone gathers no moss."(転がる石には苔むさず)。この言葉には二面性があって、転々とすることへのネガティブな捉え方と、常に変化することを恐れず新鮮であり続けることへの賛辞です。佐古さんの場合は、場当たり的だったのか、その都度、確信的な選択であったのか、短時間でお聞きした話の限りでは分かりませんが、しかしその時々に自分の望むことに抗うことなく変化し続けたことが、今に繋がっています。
今回お話をお聞きして不思議だったのは、意外にも作品づくりの思想を語らない。理想化した主義主張を掲げない。あくまでその時の生活のための事情があって、それを選んできたという文脈。しかし佐古さんの作るものを見れば、そこには一貫した造形センスがあり、今の時代を踏まえたメッセージを含んでいるのです。生きていくための選択は、その都度変幻自在ながら、常に生命の根幹と繋がることを求めているように思います。作家として佐古さんのここを見逃していけないと思うのです。
さて長くなりました。今回は佐古さんからのご指名もあり、華道家・片桐功敦さんに挿花をお願いしました。どのような展示になるか今から楽しみです。どうぞご期待ください。店主敬白
by sora_hikari | 2022-06-27 18:00 | 佐古馨展