2022年 06月 11日
「藤田佳三展 黄泉の豊穣」8日目
「藤田佳三展 黄泉の豊穣」の8日目。
藤田佳三展の会期は明日6月12日(日)17時で終了させて頂きます。
写真は京都府亀岡市にある藤田佳三さんの工房の様子です。山間に入った静かな住宅地の一角にあります。
陶芸の経験は高校時代から数えて既に40年近いキャリアの持ち主。修業のフィールドは京都、その周辺。うつわ業界の移り変わりも目の当たりにしてきた経験豊富な作り手です。
現在の器は絵付けした粉引が特徴的ですが、意外にも24歳の初個展は、現代工芸のギャラリーマロニエでのオブジェ展でした。高校時代は民芸のスリップウェアや飴釉を学び、大学時代は加飾のアンシンメトリーな作品を作り、当時は陶彫の辻晉堂(つじ・しんどう/1910-1981)の作品に感化されていました。
大学卒業後4年も過ぎた頃に、プロというのは陶芸で食べて行けてこそと思い直し、あらためて割烹食器を作る職人として問屋の伏窯で修行しました。さらに丹波立杭での修行や陶業組合職員を経て、31歳で京都府亀岡市で独立します。
粉引との出会いは、修行時代に大阪池田市にある逸翁美術館で見た李朝の徳利がきっかけでした。それまでは、京都の食器は、ほとんどが総削りでろくろ目を出さずに整えていく仕事でしたが、李朝の自由なろくろを見たときに、ようやく自分の作りたかった器を見つけました。自由造形のオブジェ、土味、そして京都割烹食器のスタイル。これらがようやく藤田さんの中で集約されたのです。
独立当初は、粉引をはじめ、刷毛目、三島手、飴釉、鉄絵など李朝ものを中心に製作していました。35歳になってようやく赤絵の仕事をはじめ、染付は39歳になってからです。絵付けのきっかけは、高邁な思想に基づくのではなく、粉引のB級品になるピンホールを絵付けで再生させるという、非常に実利的な動機から始まりました。経歴の中で絵付けを専門的に学んだ期間はありませんが、最初は単純な絵柄でも続けて描くことでまとまってきたそうで、天賦の才を感じます。
今は赤絵、染付、紅安南、飴釉などを手掛けていますが、それは中国から東南アジアを通じてペルシャまで繋がる南回りのゆったりとした作風です。その異国の民族的な要素を京都という文化と融合させることが、藤田さんの器の真髄にあるのです。考えてみれば、京都ほど伝統的でありながら、革新的な陶芸を受け入れてきた地はありません。文化的にも政治的にも保守と革新の相反する要素が併存する町。ご自身は、自作を京焼きの範疇には入れませんが、やはり京都らしい背景があるからこそ、作り出される器だと思います。
経験豊富な陶芸家として誰もが認める実力者ですが、決して尊大なことはなく、親近感溢れるお人柄です。お客様から技術的な方法を聞かれても、快く説明されます。真面目な話になると、ついはぐらかされてしまう事もありますが、結局は作った器が全てを語るということなのかもしれません。器を通した表現者でありながら、職業的にきちんと確立することを大切にしている方だと思います。食器であり、作品である。多くの経験を積んできたからこそ生まれる大人のゆとりが魅力なのです。







【藤田佳三展オンラインストア】公開中
6月12日(日)23時まで
2022年6月4日(土)~12日(日)
営業時間 11時~18時 最終日は17時迄
ギャラリーうつわノート
埼玉県川越市小仙波町1-7-6
プロフィール
1963年 京都市生まれ
1982年 京都市銅駝美術工芸高校卒業
1986年 京都芸術短期大学陶芸専攻科修了
1987年 小川文斎氏に師事
1990年 兵庫県丹波立杭にて修行
1993年 京都府亀岡市にて独立開窯
2022年 現在、同地にて制作


by sora_hikari | 2022-06-11 18:00 | 藤田佳三展2022