「伊藤雅風展 茶を奏でる急須」3日目

伊藤雅風展 茶を奏でる急須」の3日目。

伊藤雅風さんの朱泥茶銚(しゅでいちゃちょう)。中国茶風に言えば、「茶壺(ちゃふー、ちゃこ)」。煎茶風で呼ぶなら、「茶銚(ちゃちょう)」。分かり易く言うなら「後ろ手急須」。ここで伝えたいのは呼称ではないのですが、一応導入として。

さて、この急須によって浮かびあがる伊藤雅風さんという作り手の姿勢を簡単に説明しておこうと思います。

まず「朱泥(しゅでい)」について。朱泥は土に含まれる鉄分が酸化焔で発色します。歴史的には中国宜興(ぎこう)の朱泥急須が江戸期に日本に伝わり、愛知県常滑で江戸末から明治になって「朱泥急須」が作られるようになり、常滑焼を代表する急須になりました。今でも常滑焼と言えば朱泥急須を思い浮かべる方も多いと思います。

その本丸である朱泥急須に伊藤雅風さんが取り組むのは自然な流れなのですが、今の時代では朱を発色させるために粘土にベンガラ(酸化第二鉄)を混ぜる場合も多いそうです。しかし雅風さんは古典に忠実に土そのものを丁寧に水簸してこの朱色を出しています。実物を見ると分かりますが、落ち着いてしっとりした深みのある朱色です。手触りもよく、このきめ細かさがお茶の味を良くすることが視覚的にも伝わってきます。

今では、人工的な朱と区別するために「本朱泥(ほんしゅでい)」と名乗る場合もありますが、雅風さんは敢えて「朱泥急須」としています。なぜなら「朱泥」はそもそも土から引き出すものだからという考えです。当たり前のことをやっているだけ。しかしその苦労は土づくりに二年を費やすことでお判りいただけると思います。

次に形について。ここで紹介している朱泥急須(茶銚)は、中国宜興窯の三大茶銚の「俱輪珠(ぐりんだま)」や「萬豊順記(ばんぼうじゅんき)」に基づいています。忠実な再現ではなく現代に合わせたアレンジは含まれますが、古典中の古典を今に活かすことが念頭にあります。意外なことですが、現代の常滑においても本歌となる古典を再現しようとする作家がほぼ見られなかったこと(私見ですが)。それは中国の量産品にも多くあったため、当たり前過ぎたのか、あるいは古典の価値を忘れかけていたのか。むしろ作家が表現する急須は、細工や釉薬などで個性を求める方向にあったように思います。しかし、あらためてその価値を現代に活かそうと取り組んだのが、当時20代後半の伊藤雅風さんであったことに驚きを覚えるのです。

雑駁な説明ではありますが、この朱泥急須で伊藤雅風さんの基本的なスタンスが見えてくるのです。基本を活かす。それはシンプルだが難しい。土づくりは無駄に時間が長く(調整済みの土を購入すれば良いのに)、古典的な形状が経済価値を生みづらい(没個性に見られがちで作家ものとして価格転嫁しづらい)。今でこそ多くの雅風急須を支持する方が多いですが、独立後まもない取り掛かり時点では売りづらいというお店側の意見もあったことでしょう。しかし、良い急須とは何か、彼が惚れる古典急須の良さを信じたがゆえの今があるのです。

朱泥急須を通して、彼の矜持を感じるのです。



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【入店のご案内】
新型コロナウイルスの感染防止対策として、マスクの着用、手指のアルコール消毒、定期的な換気に留意しながら営業致します。また同時に入店者数は8名様迄とさせて頂きます。

【急須実演会】
12/22(火)、23(水)、26(土)は、日本茶アドバイザーの藤 香(ふじかおる)さんに、青鶴茶舗の茶葉と雅風さんの急須を使ったお茶の美味しい淹れ方のアドバイスをして頂きます。

伊藤雅風展 茶を奏でる急須
2020年12月19日(土)~27日(日)
営業時間 11:00~18:00
ギャラリーうつわノート
埼玉県川越市小仙波町1-7-6

伊藤雅風 略歴
1988年 愛知県常滑市に生まれる
2007年 常滑高等学校セラミック科卒業
2009年 村越風月氏に師事
2011年 名古屋造形大学産業工芸コース卒
2012年 独立
2020年 現在愛知県常滑市にて制作

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by sora_hikari | 2020-12-21 23:30

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