「伊藤雅風展 茶を奏でる急須」開催のお知らせ

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朱泥茶銚 胴径86・蓋高 50mm  容量90cc

12月19日(土)から27日(日)まで開催する「伊藤雅風展 茶を奏でる急須」のお知らせです。

伊藤雅風展 茶を奏でる急須
2020年12月19日(土)~27日(日)
営業時間 11:00~18:00
ギャラリーうつわノート
埼玉県川越市小仙波町1-7-6
※今回コロナ感染拡大の影響で残念ながら作家の立会いはありません。

彼のストラディバリウスは、その希少性と稀有な音色によって誰もが知る名器ですが、しかし比較実験によると厳密にその音と現代のバイオリンの差を明確にすることは難しく、むしろ明瞭な新しい楽器の方を評価する人も多いそうです。ではなにゆえに名器であるのか。何事もそうですが、ものの良さを追求していけば、ある段階までは明瞭な違いがあるものの、頂点に近づけば近づくほどそれは僅かな差となります。しかしその僅差にこそ、歴史に刻印されるか否かの分かれ目があるように思います。それは楽器としての機能性だけではなく、歴史、技術、音質、希少性など複合的な要素が付加され、より神秘性を帯びるのです。

伊藤雅風さんが生まれ育った愛知県常滑市は江戸時代後期から急須を作りはじめ、明治以降に中国宜興の影響を受けながら日本の急須の産地に成長し現在に至っています。雅風さんは大学時代に常滑の急須作家・村越風月氏のもとに弟子入りし、それ以来急須づくりに専念してきました。その根幹となるのは土づくりです。原土を時間をかけて水簸(すいひ)し、さらにそれを寝かせ、約2年の月日をかけて急須の土を作ります。雅風さんの急須はほとんどが釉薬をかけない焼き締め。急須の土そのものがお茶の味に影響することから、手間暇惜しまず拘り続けています。確かにきめ細かく水簸された土を焼き締めると、微細な多孔に含まれている空気が水をまろやかにしてお茶を美味しくすると言われます。

また急須はパーツが多く陶芸家にとって造りの力量が問われるアイテムです。その技術の高さは雅風さんの急須を手にすれば納得して頂けるはずです。このように造りも機能的も優れているのですが、それ以上に感心するのは急須に備わった品格です。それは優れた楽器と同じように素材と技術が昇華され、最終的に音色のような感覚の世界に収斂されていくのです。しかしながら手間暇かけた土にしても、精巧な造りにしても、外形的にはわずかな違いにしか見えないかもしれません。しかしそのごく僅かな差に長い時間をかけ、気持ちを込めた急須だからこそ、使う側の思いが増すはずです。優れた急須は、茶と人と道具が一体になり、楽器のごとく茶を奏でる豊かな時間をもたらしてくれるのです。

かつて中国の明代、江戸後期の京都では茶を喫する道具は人の意識を高揚させる文人趣味の中に位置していました。歴史的名器であるストラディバリウスを引き合いに出すのは畏れ多いことですが、雅風さんの急須を知ると、単なる道具の機能的評価よりも、複合的な要素によって成り立つ名器のような思いに至り、やがて外形を超えた抽象的な感性の世界に誘われるのです。お茶の専門家にも支持される雅風さんの急須は、使う人の意識を高め、所有する喜びが湧く急須と言えましょう。約二年をかけて準備した急須の数々が揃います。どれひとつ同じものはありません。年末の慌ただしい時期の開催となりますが、皆様の手でこの急須で美味しいお茶を奏でて頂ければ幸いです。店主

伊藤雅風 略歴
1988年 愛知県常滑市に生まれる
2007年 常滑高等学校セラミック科卒業
2009年 村越風月氏に師事
2011年 名古屋造形大学産業工芸コース卒業
2012年 独立
2020年 現在、愛知県常滑市にて制作

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黒泥茶銚 胴径88・蓋高65mm 容量140cc


by sora_hikari | 2020-12-14 17:23 | 伊藤雅風展2020

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