2020年 12月 11日
「壷田和宏・亜矢展 大地と繋がる器」7日目
「壷田和宏・亜矢展 大地と繋がる器」の7日目。
デフォルメされた取っ手が印象的なマグカップです。アンバランスな見た目と裏腹に、手に持ち易く、意外にも握力の弱った年配の方に好まれるそうです。
このようなカップは壷田さんに限らず、過去に何人かの作を見たことがありました。壷田さんの知るところでは、常滑の奇才・鯉江良二さんが早くに手掛けておられたそうです。なるほど、鯉江さんと言えば、80年代に陶芸の呪縛を打ち破り、世に解放した人物。その自由な発想と共に生き方そのものが作るものを体現していた方だと思います。
確か80年代から90年代にかけて旧来の陶芸様式から逃れるように、自由な形や絵付けを表す型破りな器が頻出した時期があったと思います。世の中は高度成長期が落ち着き、次の時代を模索していた頃。アートではジュリアンシュナーベルやバスキアといったニューペインティングがブームになり、サロンから決別した価値観が生まれ始めていました。70年代のヒッピー思想の自由平和主義の理想論が瓦解し、より現実的な価値の見直しが起こっていたように思います。美術も陶芸もモードからストリートへそのステージが急転換した頃ではないでしょうか。
やがてその後、90年代後半から2000年に入って起こる生活工芸(後発的ネーミングですが)は、伝統工芸や美術工芸への反発というよりも、むしろ80年代の行き過ぎた自由造形へのカウンターであったように思います。少し前におこった流行が途端に輝きを失ってしまう。直近のものほどダサい。どんな流行に起こり得る現象です。生活工芸は思想的には自由主義は引き継ぎつつも、造形的にはモダンクラフトや北欧スタイル、当時の無印用品的暮らし様式(無垢の家具、白い壁、マンション)に呼応して、より洗練されたスタイルを選んでいき、それが前時代を凌駕する美意識に転じていったと思います。経済の行き詰まり、自然暮らし、ロハス、丁寧な暮らし、ものを持たずに豊かに。80年代の自由造形はやがて、身近な足元の価値に場を移し、暮らし思想と同化していきました。
さて、今や生活工芸と呼ばれたうつわの価値観も造形スタイルも大きく変化し、第三、第四のあらたなステージが始まっています。SNSを中心に加速し、マスメディアには頼らないうつわの広がり。あらためてその前提がない今の人が、このマグカップの造形をどう受け止めるのだろうかと興味が湧きます。単にかわいい、のか、かっこいいのか。80年代と繋がる俯瞰した視点でこのカップを見た時に、時代がぐるっと一回りしてどういう認識がされるのか。同じ円を描いているようで、実はスパイラル状に重なり合うことなく、当時の認識とはずれながら価値は移動しているはずです。そこに透けてみえてくる時代感が捉えてみたいと思います。きっと世情などに流されず屈託なくこのカップを作り続けている壷田さんにとっては不毛な見方だと思いますが、そういう考え方もしてみたいのです。
会期はあと2日。12月13日(土)までとなります。ご覧頂けるうつわはまだ十分にございます。このような時期ですので、感染防止に気を配りながら営業して参ります。お出掛けになれない方のために、全品ではありませんがインスタグラムで通販の対応もしております。



略歴
壷田和宏 1972年 三重県伊賀市生まれ
壷田亜矢 1972年 愛知県安城市生まれ
1995年 愛知県立芸術大学陶磁専攻科卒
1995年 愛知県長久手町に築窯
2000年 三重県伊賀市に築窯
2009年 宮崎県高千穂町五ヶ所に移住
2020年 現在、同地にて制作


by sora_hikari | 2020-12-11 18:00 | 壷田展