2020年 05月 03日
「田中敬史展 焼〆の現代美学」オンライン販売会のお知らせ

5月9日から17日の「田中敬史展」はコロナウィルス禍の緊急事態宣言延長に伴い、実店舗での展示会を取りやめ、オンラインのみで販売させて頂きます。今後ブログ、Facebook、インスタグラムにて作品をご紹介致します。DMをお届けしました皆様には直前の変更となりお詫び申し上げます。
滋賀県日野町にて焼〆の器を制作する田中敬史さん。大学在学中に陶芸に出会い、卒業後は信楽の製陶所で働き、その後和歌山県の森岡成好さんの元で修業したことが自身の方向性を決定づけました。
釉薬をかけずに焼成する焼〆は、土と火による自然性がそのまま器に表れます。元来、中世(鎌倉~室町)に作られた甕・壷・鉢などの無釉の貯蔵器であり、道具であったそれらは無名の職人によって作られ、外連味のない佇まいと薪窯による自然灰の景色など、当時の茶の湯の世界で見立てられたのが始まりです。さらに昭和になって古い窯業地の六ケ所(瀬戸・常滑・信楽・丹波・備前・越前)が定められ、あらためて中世の壷や甕の美しさが認識されました。
現在も備前をはじめとする焼〆を主とする産地はありますが、田中さんが取り組むのは、南蛮焼〆と呼ばれる東南アジアをルーツとする土着的な焼〆です。日本産地の焼〆が定型的な見所(窯変による火襷、桟切、牡丹餅など)があるのに対して、南蛮は特に決まった約束事がなく、定型に捉われない自由律の焼〆との解釈も出来ます。
さて改めて現代における焼〆の魅力を語る上で、縄文の頃と結びつける土と火の根源的な人との関係性や、あるいは単純な構成要素による直球の造形美を謳う場合が多いでしょう。しかし繰り返されるこの評価は、本当に今の人々に届くのでしょうか。釉薬の器でも、絵付けの器でも良いものは良いし、焼〆であっても作る側の作為はある訳ですから、それのみを根源的と断定するのは早計です。
その価値観を現代的な視点で捉えるなら、食の自然回帰への一連の流れ、例えば有機野菜、ビオワイン、玄米食などのオーガニックな志向と重なります。添加物のない自然素材への見直し。自然に培われた本来の味への希求。それは裏を返せば演出過剰な工芸に対する原点回帰でもあるでしょう。
平準化されたクラフトに対して、象徴性を求める焼き物への再認識。再現出来ない一品物でありながら、自然素材ゆえに料理や花との調和をもたらす謙譲の美徳。きっとこの精神的な揺り戻しは焼〆に限らず、様々な分野で湧きおこっています。
そろそろ在り来たりな焼〆評から離れて、現代的な美学を問うことが必要だと思うのです。田中さんの仕事を通して、今醸成されつつある現在進行形の焼〆の美しさを感じて頂ければ幸いです。店主
プロフィール
1978年 京都府生まれ
2000年 大学ゼミにて陶芸を学ぶ
2001年 信楽にて製陶所勤務(6年間)
2007年 森岡成好氏に師事(4年間)
2011年 滋賀県日野町上駒月に移住
2014年 初窯を焚く
2020年 現在同地にて制作
田中敬史展 焼〆の現代美学
2020年5月9日(土)~17日(日)
ギャラリーうつわノート
※オンライン販売会のみ
by sora_hikari | 2020-05-03 16:42 | 田中敬史展