「西川聡展 もうひとつの工芸」ありがとうございました

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西川聡展 もうひとつの工芸」は本日終了しました。会期中ご来店下さいました皆様へ厚く御礼申し上げます。

西川さんの世代の作り手は大学を卒業した時点で「うつわ作家」という確立した呼称はなく、「陶芸家」として家系や伝統産地の後ろ盾のないまま市場に出るには、公募展でキャリアを積むか、地道に需要に応じた器を作ることが生活の術でした。

当時のムサビの陶磁は北欧系クラフトの流れを汲み、生活に根差したモダンクラフトを作ることが主体であったと思います。それが1980~1990年代。ちょうど「生活工芸」と呼ばれる暮らしと繋がる作家が各方面で登場し始めた頃です。

「生活工芸」の定義には様々な解釈がありますが、当時メディアを席捲した方々だけではなく、同時代的にいろいろな領域の作り手が一般的な生活者の価値観に合うもの作りを始めていました。例えば、西川さんの世代では、同学であった村上躍さんや矢尾板克則さん、あるいは一般大学ご出身の田中信彦さんや鈴木稔さんといった作り手が思い浮かびます。それは近代工芸の流れを汲む焼き物や前衛陶芸とは分断された新種のクラフト運動であったように思います。

やがてこのポストクラフト世代は、様々なスタイルが相互に絡み合いながら、時代に即した洗練された生活道具を産み出し、全体を形成していきました。発表する流通の場も従来のデパートや焼き物系画廊ではなく、雑貨店、自宅ギャラリーなど高所にいない身近なお店が、一般庶民に使うことを前提にした器を近づける役割りを果たしました。

今の「生活工芸」のひとつの評価軸にある個人の表現を抑えた器とは異なり、西川さんたちが培ったのは今までなかった思想と技法に基づく「独自表現」だったと思います。シンプルな形状ながら独特のテクスチャーがあり、個々の技巧的工夫があったと思います。西川さんの器を見ていると、身体的な形(例えば手で包むような形)の原理に基づき、そこに独自のテクスチャーを施すといった、自分で考えた工夫が根底にあります。形状は自然のもつ有機性に委ねながらも、かちっとした骨格を感じるのは全てに手を入れて形成した工夫と技術があるからだと思います。

今の時代は、むしろ素材に委ね、独自性を表立たせない傾向の器も多くあります。古典の写しも厭わず、リプロダクトすることで自分を消し去る方向もあります。料理を盛る道具として、製作物が主張をしない事は、本来あるべき姿かもしれません。それは作る側の意識を優先した目線よりも、使う側の目線であり、開発する事よりも流行をコラージュした定型的価値の引用であり、見立てに近い感覚かもしれません。

「うつわ」作りに於いて、その良否があると思います。自ら工夫して作ることを抑えてしまえば、誰にも受け入れられ易い客観性を維持できる一方で、失われてしまう創造性や表現もあるでしょう。西川さんがデビューした頃は、「うつわ」も決して洗練されているものばかりではありませんでした。多くの作り手が、使う方たちやお店の人と、またメディアなども相互に影響し合い、試行錯誤しながら段階的に変化していったのです。その結果、今の生活に合う「うつわ」市場が形成されてきました。

今デビューする作家は、出来上がった市場に即した洗練され完成度も高いものをいきなり作れる時代だと思います。ネット情報をはじめ、流行もすぐに目にすることもできます。しかしそれらはスタイルや技巧の点で既視感があるものが多いことも事実です。一例をあげるなら最近多く見かける朽ちた木を使った旋盤加工の木のうつわ。皆んなが一斉に作っていることに驚きます。きっとそれぞれに理由があり、良いものはうつるのだと思いますが、あまりに露骨で失笑することもあります。こういう現象は自分自身の工夫によって「ものを創る」意識を低下させ、脆弱な体質になる危険性もあるのではないでしょうか。

決して今の作り手全てに工夫がないとは思いませんし、むしろ多様な表現が生まれ、多様な価値が受け入れられる豊かな時代だと思っています。ただ一部にそのような傾向があることも事実です。いずれにしても傍若無人で時代遅れの見解であることは承知していますが、このような時代だからこそ、西川さんたちが培ってきた自らの工夫(形状・技法・発表の場・時代の意識など)の大切さを、あらためて見つめることも必要だと思っています。


これからの営業案内

うつわノート(埼玉県川越市小仙波町1-7-6)
11/18(月)~11/22(金) 搬出・設営休み
11/23(土)~12/01(日) タナカシゲオ展
12/02(月)~12/06(金) 搬出・設営休み
12/07(土)~12/15(日) 森岡成好展

営業カレンダー

by sora_hikari | 2019-11-17 17:01 | 西川聡展

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