小野哲平展  衝動と暴力性

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4月20日(土)から始まる「小野哲平展  衝動と暴力性」のご案内です。

うつわは用具であるがゆえに、第三者に分かり易い普遍性が求められる。この平成の間に作家が作るうつわを取り巻く環境は大きく変化し、協調性をもって暮らしに寄り添うことを正しい価値として認識されてきた。小野哲平もまた若い頃の表現的なうつわから調和的なうつわへ変化してきた代表的な作り手ではないだろうか。しかし、一方でものを生み出す原動力には既成価値を破壊しようとする反作用もある。若い頃の作品を見れば、顕著にパンクな姿勢を見出すことができる。その意識は現在のうつわ作りで消え去った訳ではないが、ことさら情動を表出しなくともその意識を埋め込むことに自らが納得する達成をみたと言えるだろう。

しかし昨今のもの分かりの良い工芸の状況を見るにつけ、その枠組みで価値づけられる事への違和感が強く生まれているようだ。今回、この思いを受けて「重厚」で歩み寄らない「うつわ」を提示して欲しく要望を出した。それが約1年前であったろうか。2017年の個展で見せた「塊」を受け継ぎ、それに用途を併せて欲しい旨の短絡的な考えであった。その意図を彼なりに咀嚼し、形として提示されたものが今回の「作品」である。見て分かる通りそれは「うつわ」の姿をしておらず、要望とはかけ離れた姿ゆえに当初は戸惑いの中にあった。だが考えてみれば、これはオブジェとして提示されたものではなく、親和的に解釈されがちな自己の「うつわ」に対する反動であるだろう。返して見れば、これは明らかに「うつわ」の文脈と同一線上にあり、その根幹と表裏一体を成すもうひとつの姿なのだ。そこに共通するものは何か?彼の言葉を借りるなら、「衝動と暴力性」。もの作るうえで大きな動機づけになるパッション。そして抑えきれない暴力的衝動を形として吐き出す、ある意味で危うい思いを安定させるために噴出口でもある訳だ。

彼とのやり取りを一部紹介する。「若い時代から今も続く自分の内面の暴力性との折り合いをどうつけるか。粘土の肉感、それを鋭利な刃物で刺した時の感触。巨大な炎を操り興奮したい。しかし、コントロール出来ない時の恐怖。自分の衝動を疑似的な行為で変質することで、この社会に存在出来たと思っている。」また「この仕事を選ばなかったら犯罪者になっていたかもしれない。この仕事を通して自己の快楽を昇華することで社会的に無害な存在になっているのではないか。では、なぜ無害だけに満足せずに社会的に有益な意味を求め続けて来たのか。それは芸術という手段で世界を昇華出来ることを信じたいからだ。」ここに顕著に彼のもの作りの動機が顕れている。

さて、今回の作品。焼き物本体に絡む針金の存在が特徴的だ。貫通したもの、不安定なもの、あるいは拘束的なもの。いずれも彼の精神状態を暗示しているようにも見える。先の言葉通り、内面から発する衝動が、ものづくりの動機であるならば、「うつわ」は単なる従順な道具ではなく、心からえぐり出されたどろりとした塊のようなものである。作り手の内面に潜む暴力性。破壊、快楽、そして救い。その作品評価は未知数であり、存在もまた未定義である。しかし、どう解釈されようとも既にここに生れた。どこにも納まろうとせず未解釈のままここに在ることに意味がある。1980年代、まだ陶芸が大いに権威主義的な時代から挑戦をもって「うつわ」の時代を築いてきた第一人者である。

今「うつわ」を取り巻く環境は認知され平準化された。奇しくも平成最後のこの時に、「衝動と暴力性」を掲げた「作品」を提示することは、次の時代に向けた覚悟でもあるだろう。これを見ずして、触れずして、語ることなかれ。自分自身の体験として記憶に留めて欲しい。店主

小野哲平プロフィール
1958年 愛媛県松山市に生まれる
1978年 岡山県備前にて修業
1980年 沖縄県知花にて修業
1982年 常滑にて鯉江良二氏に弟子入り
1985年 愛知県常滑市にて独立
1998年 高知県谷相に移住
2019年 現在、同地にて作陶


小野哲平展  衝動と暴力性
2019年4月20日(土)-28日(日) 11時~18時 
作家在廊日4月20日(土)
ギャラリーうつわノート 埼玉県川越市小仙波町1-7-6 地図

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by sora_hikari | 2019-04-15 13:19 | 小野哲平展2019

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