2018年 11月 11日
「田中孝太 展 唐津アドレナリン」終了しました
「田中孝太 展 唐津アドレナリン」は本日終了しました。ご来店頂きました皆様に厚く御礼申し上げます。
うつわを見始めた頃には、唐津を始めとする古典的な窯業地の焼き物には興味がありませんでした。茶陶や懐石の器を据えた場に出掛けることもありませんでした。様式に頼った焼き物は、伝統の名を借りた土産物に見え、まるでブランドロゴ入りの財布を有り難がるような印象を持っていました。これは茶陶に限らず民芸の再生品も同様でした。排他的な村社会の中で語られる特殊な世界であって、今の時代に意味を成さないのではないかと。
いわゆる生活工芸と呼ばれる暮らしに向けた器が1990年から2000年代に開花し、産地や様式に縛られない作り手が一斉に増えた頃だったと思います。それは今の暮らしの中で輝きを持つ新たなうつわでした。クラフトと呼ばれた食器が洗練され、生活者目線で誰もが垣根なく参加できる開かれた世界でした。無国籍、思想や観念の消去、音楽や衣服、そして食と繋がる暮らしと並列な存在でした。意識しようとしまいと、それは昭和から続く桃山陶至上主義に対する緩やかな階級闘争(とういうか不介入)でもあったと思います。
今、うつわブームと聞きます。行列のうつわ作家という切り口で雑誌の特集が組まれる程、裾野が広がっています。時代の開拓者がいて、その後に続く作り手が登場し、やがてSNSを始めとするメディアがそれを拡散した。旧来価値との相対に位置していたものが、いつの間にか流行になって消費されていく現実。ファストファッション化する暮らしの器。かつての感動は無くなった。売れ筋の流行を安易に上書きしている事実も否めません。
あらためて古典の意味を気付かせてくれたのが、唐津や有田でした。その移行期におこった日本の食器革命を知ることで、今に繋がる器との接点が見えてきました。生活に向けた今のうつわにも原点があり、その系譜の上にある。生活工芸が歴史と断絶されたかに見えても、実は連続性のうえに成り立っている。あらためてその骨格を意識することも大切ではないかと。自由の名のもとに骨抜きになることなく、技術的、様式的な拠り所のある確かさと厳しさ。それに頼り、また疑いながら生み出される現代的なうつわ。
これを感じたのは唐津や有田にいる作り手の新たな動きです。唐津は昭和初期の古唐津再生から復古し、それ続く個人作家の登場、田中さんの師匠でもあった中川自然坊さん、川上清美さんなどの新世代、そして材料の原点回帰に影響を受けた第四世代の時代を迎えています。固定化された唐津の考えを超えようと、古典の再解釈がおこっています。
焼き物保守王国である唐津はじめ、きっと美濃、備前でも同様の動きがあるでしょう。さらに産地に捕らわれずに、焼き物の在り方自体の原理に立ち返る作り手も全国に表れはじめています。伝統は更新されることで意味を保ち続けます。一方の新種の工芸にも骨格となる思想や技術の検証が必要です。古典と現代。まだ未定義な、この混じり合うフロントが面白いと思います。
田中さんは決して全てが自在な訳ではない。唐津の枠組みの上にいる。しかしその約束事を踏まえて、身体的自由であろうとする唐津、そこに可能性を感じるのです。産地側から見た変化、産地から解放された側の変化、何故そうなるのか時代に照らし合わせてその意味を考えたいと思っています。
お持ち帰り頂きました田中孝太さんの器が皆様のお暮らしを豊かにしますことを心より願っております。新人作家の器を、曇りのない眼でお選び頂けましたこと、嬉しく思います。これからも田中さんの活躍にご注目ください。この度はありがとうございました。
これからの営業案内
うつわノート(埼玉県川越市小仙波町1-7-6)
11/12(月)~11/16(金) 搬出・設営休み
11/17(土)~11/25(日) 中野知昭 漆器展
11/26(月)~11/30(金) 搬出・設営休み
12/1(土)~12/9(日) 森岡成好 展
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by sora_hikari | 2018-11-11 18:09 | 田中孝太 展