2014年 11月 18日
「中野知昭 漆器展」 河和田の誇り

「 中野知昭 漆器展 お正月の形 」は、本日終了しました。会期中はたくさんの方々にお越し頂き、厚く御礼申し上げます。
中野知昭さんは、越前漆器の里、福井県鯖江市の河和田で生まれ育ちました。塗師の父親を持ち、幼い頃から漆器の環境に触れてきました。河和田は伝統のある漆器の町。景気の良い頃は仕事がたくさんあって、町も潤ったようです。
しかし生産の海外流出、生活の変化による漆器離れ、景気の後退など、産業としての漆器は大きく疲弊しています。量産漆器を主とする河和田もその影響を大きく受け、新しい作り手がなかなか育ちづらいようです。
中野さんはこのような環境の中、敢えて個人の「塗師(ぬし)」の道を選びました。量産漆器の枠に入らず、自分の名前で良質なものを届ける仕事。それが、中野さんが産地の中で示した姿勢です。
かつて河和田には、山本英明さんという塗師がいました。「塗師屋のたわごと」という本を執筆され、漆器の在り方や世相に対して、ご自身の考えをストレートに語った方でした。名漆会という団体をつくり、もう一度、きちんとした漆器の良さを取り戻そうという活動もしていました。素朴で日常使いの漆器の大切さを唱えた人です。
この山本英明さんは、中野さんのお父さんと同級生でした。中野さんとは一世代が違いますが、河和田の塗師として独立する上で、その影響は大きかったと思います。
中野さんは、河和田の漆器に誇りを持っています。量産漆器の町にあって、個人作家の活動は微々たるものかもしれません。しかし次世代に繋ぐ可能性を示すために、中野さんは孤軍奮闘しています。
当店で漆器の展覧会を開催するのは、今回が初めてでした。上塗りの美しさに定評のある中野さんの漆器を皮切りにできたのは幸運なことでした。それは漆という素材の良さをストレートに伝える器だったからです。愚直に良いものを作ること。それしか中野さんには方法がありません。河和田の誇り。塗師として。
ぜひこれからも中野知昭さんの漆器に触れる機会がありますことを、心から願っています。この度はありがとうございました。
by sora_hikari | 2014-11-18 18:00 | 中野知昭 展