「中野知昭 漆器展」 お椀づくりの工程

中野知昭 漆器展  お正月の形 」(11/18まで)を開催中です。

本日は、中野知昭さんのお椀づくりの工程をご紹介します。

全工程ではありませんが、下地づくりから上塗りまでの流れを大まかにご理解頂けるのではないでしょうか。産地によって呼称や工程の差はありますが、きちんとした漆器はこのようなプロセスを経て作られています。一般人には完成した上塗りの状態を見ただけでは区別がつきづらいものですが、中野さんの漆器が堅牢であるのは、こういう地道な作業の積み重ねがあるからです。

漆器の価格が、相対的に他の食器よりも高額になるのは、このような作業工程があり、また昨今の急激な材料費の高騰があるからです。実際に作る側からすれば、今の価格は利幅を減らして、ぎりぎりのところで設定しているのです。漆器をなるべく多くの人に使ってもらいたいという思いと、しかし品質は落としたくないという思いのジレンマは常につきまといます。

今はきちんとした工程で作れば、汁椀で1万円は超えてしまいます。最近は混合木樹脂をベースにして、工程を減らし量産された漆器が千円台で提供されています。厳密な定義はありませんから、これも漆器。但し、品質はそれなりです。またこの廉価品を生み出す構造のリスクは、売れなくなってその企業が撤退してしまえば、残された産地の市場が荒れたまま取り残されるという危険も孕んでいるのです。

作家の作る漆器も価格を下げようと思えば、下地の工程の簡略化、木地の質を落とす、漆の使用を減らすなどすることで下げることは可能ですが、極端なコストダウンは当然品質の劣化を招きます。それでは本来の漆器の良さが失われます。

例えが適当ではないかもしれませんが、毎日の眠りに大切な布団。最近は羽毛の布団を使う方も多いのではないでしょうか。市場をざっと見ただけでも、本当にピンからキリまで様々な価格帯のものが流通しています。ただ眠れればいいという割り切った考えもあれば、人生の大半である眠りの大切さのためには良いものを選びたいという人など、判断基準は千差万別でしょう。

漆器もいろいろな選択があります。中野さんの漆器は決して高級路線を狙ったものではありません。実直に良い漆器づくりを行う過程でかかるコストから積算された適正な請求です。良いものはそれなりの理由がある。それを理解して欲しいと思います。購入時点で高額と思えても、使用できる時間係数で割り算をすれば一概に高いとは言えません。良いものを使う。それは結局は自分自身に返ってくる意識の向上なのだと思います。

今は、中野さんだけでなく、若い漆器の作り手も増えています。ぜひ公平な目で漆器を生活に取り入れて欲しいと願っています。

  製作工程
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  1)右側:「荒挽き」 この状態で数カ月乾燥させる。
  2)左側:「木地仕上げ」 椀の基本形を仕上げる。

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  3)真中:「木固め」 生漆を木に塗って吸い込ませる。

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  4)右側:「布着せ」 傷み易い口縁や見込みに布を貼って補強する。
  5)左側:「布削り」 着せた布を削って形を整える。

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  6)右側:「一辺地」 1回目の下地付け。生漆、地の粉、砥の粉、米糊を混ぜ合わせたものをヘラ付け。(地の粉=珪藻土を蒸し焼きにし粉砕した粉末) 
  7)真中:「二辺地」 2回目の下地付け。地の粉を段々細かな粒子のものにする。
  8)左側:「三辺地」 3回目の下地付け。

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  9)「地砥ぎ(じとぎ)」 下地段階の仕上げに研ぐ。この段階で口縁などの細かな形を作る。

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  10)「中塗り」 精製された漆を塗る。

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  11)「中塗り砥ぎ」 仕上げの研ぎを行う。

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  12)「上塗り」最後の仕上げ。刷毛塗りで仕上げる(塗り立て、真塗り)。乾燥させて完成する。

作業風景
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布着せの作業 (漆を練りつけた布を椀の口縁に貼っているところ)

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布着せの状態と、下地付け用のヘラ。

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布削り (貼った布を削って形を整えているところ)

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一辺地 (一回目の下地付け。生漆、地の粉、砥の粉、糊漆を混ぜ合わせたものをヘラ付け)

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上塗り用の漆を濾しているところ

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上塗り用の刷毛と精製漆。刷毛は人毛で出来ている。上塗り用の漆。。国産漆はこの箱一貫目(3.75kg)で20万円近く。さらに精製したものになると40~50万円する。中国産は国産よりは安価だが最近価格が1.5倍に値上がりした。人毛の刷毛も今や貴重なのもの。こういう道具を作る職人がいなくなってきているのが現状。

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上塗りが済んだ椀の「つく棒」(治具)を取り外しているところ

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乾燥用の回転風呂。

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電動で回転させながら乾燥させる。漆は空気中の水分と結び付いて硬化するので湿気を与える。

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工房近くにある河和田塗りを展示する「うるしの里会館」。福井県鯖江市。


中野知昭 漆器展  お正月の形
2014年11月8日(土)~18日(火) 会期中無休
営業時間 11時~18時  
ギャラリーうつわノート
埼玉県川越市小仙波町1-7-6 (地図

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by sora_hikari | 2014-11-14 12:33 | 中野知昭 展

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