LEE UFAN展@カイカイキキギャラリー

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元麻布にあるカイカイキキ・ギャラリーで開催中の「李禹煥(リ・ウーファン、Lee UFan」さんのトークショーに行ってきました。浅学ですが、書き留めのつもりで記述します。

李さんは1960年代後半から70年代初頭に現れた「もの派」と呼ばれる芸術ムーブメントを代表する方。その作品は、筆(刷毛)によるシンプルな軌跡、石、鉄、ガラスといったソリッドな要素で構成されています。今回のカイカイキキギャラリーの作品も、まるで禅庭のような佇まいです。それは、西洋の概念的なミニマルアートよりも、禅を軸とする思想性や茶の湯の削ぎ落とされた美学を感じます。

李さんの学生時代は西洋的文脈のアートが軸になっていたようで、日本発で戦後アートの流れは、まだ未整理だったそうです。国内で展覧会するよりも、海外での実績が逆輸入されることで再評価されるという、国内が自己確立していないアートシーンだったのでしょう。

「もの派」と言えば、地中から土を円柱状に彫り出しただけの関根伸夫さんの「位相-大地」は知っている方も多いかもしれません。石、木、紙、綿、鉄板などにあまり手を加えずに組み合わせただけの芸術作品。

60~70年代のアートは、もっと価値破壊的なパッションを原動力とする激しい方向や、アングラ劇のような退廃的な美学の中にあって、削り落していくだけの無口な「もの派」が同時に生まれたのは興味深いと思います。反米、反権威、高度成長。時代は自身の文化的確立を求めて模索していた時期だったのではないでしょうか。

その中にあって、李さんの活動は西洋的美術の文脈に対する、東洋発、日本発の美意識の再定義だったように思います。数寄屋、庭、書画に見られる日本的ミニマリズムの再構築。間の美学。そう、本来日本にあった意識を世界向けに翻訳し、新たに東洋と西洋の融合、またはどちらでもない新たな価値を提示したことに意味があったのではないでしょうか。

皮肉なことに、当時は李さんの評価は日本よりも海外からの方が早かったようです。ここ数年に再編された「もの派」の定義によって、さらに国際的にも日本でも評価も高まったようです。

こういう流れを見ると、何故、村上隆さんのギャラリーでこの展覧会が開催されているか繋がってくるように思います。表現の方法は違っても、日本文化の特殊性を明文化し、再構築していること。そして海外のアートシーンに拮抗し得る文脈でのプレゼンテーション。勝手な見方に過ぎませんが、そこに村上さんがシンパシーを感じているのも頷ける気がします。

トークショーの後半の方で、李さんが最近の日本のアートの貧弱さを嘆いていました。今の文明に対してアーチストの発想や態度が問われているのではないかと。一見すると、もの静かなアート作品の李さんですが、表現することへの情熱を語る背景に、ご自身の今まで歩んでこられた闘いや葛藤を垣間見た気がしました。

トークショーは会場が溢れんばかりで大盛況。若い人もたくさん参加していました。世界的アーチストというよりも、普段のまま自分の経験を説明する李さん。若い作り手も、きっと出発点は同じとして何か共鳴することがあったのではないでしょうか。先人に学ぶ。大切な機会だったと思います。


李禹煥 展
2014年07月25日 – 2014年08月21日
開廊時間 :11:00 – 19:00
閉廊日:日曜・月曜
カイカイキキギャラリー
(東京都港区元麻布2-3-30元麻布クレストビルB1F)
ホームページ

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by sora_hikari | 2014-08-10 19:40 | 見て歩き

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