2012年 07月 07日
名前のない道 赤木明登
輪島の塗師・赤木明登さんの6月末に出版された著書。季刊誌「住む」に連載されている同エッセイを一冊にまとめたものです。赤木さんは、過去に塗師になる過程を書いた「塗師物語」をはじめ、「美しいもの」「美しいこと」の著作があります。前著は、ご自身の体験や、著名な方々を対象にした具体的なテーマに基づく内容ででしたが、この本は特定のテーマを持たず自由な視点で綴られた赤木さんの思索になっています。本のタイトルである「名前のない道」とは、名前はないけれど、確かにそこにある事象や感覚を言い表そうとしているのだと思います。ものごとに名前がつく事で、記号化された概念として共有できる言葉になりますが、一方で定型化された枠に留まり、実態としての「感覚」を失うこともあります。そんな捉えどころが難しい「感覚」を書き記そうとしているのが本著の主題だろうと思います。話題は、松田正平氏(画家)、メムリンク(画家)、角偉三郎氏(塗師)、祭り、茶の湯などに触発されて赤木さんの体験から浮かぶ「感覚」や「気」に展開していきます。そしてそれらに通底するのは「美しさとは」という問いかけであるようです。赤木さんの作る静かな漆の器の底流には、こんな深い思索があるのだと思い知らされる本です。
名前のない道
著者:赤木明登
新潮社
定価:1900円(税別)
2012年6月22日発売
紹介ページ
by sora_hikari | 2012-07-07 13:08 | 本