アーツ&クラフツ展 @ 東京都美術館

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上野の東京都美術館で開催されている「生活と芸術 アーツ&クラフツ展」へ行ってきました。これは19世紀後半にイギリスで興ったアーツ&クラフツ運動をはじめとする約280点の工芸品を展示するものです。展示エリアは3つのゾーンで構成されていて、1つ目はその運動の発祥地であるイギリス、2つ目はその影響を受けたヨーロッパ地域(ウィーン,ドイツ,北欧)、3つ目は日本の民藝を扱っています。アーツ&クラフツ運動()といえば、近代デザイン史を学ぶ際に、その起点として語られることが多いように思います。そこから広がっていったアールヌーボー()、アールデコ()、ウィーン分離派()、ユーゲントスティル()、、、さらにバウハウス()と20世紀のデザインの流れをパッケージして見るときに、その意味合いの原点となっているようです。元来、人々がずっと行ってきた装飾という行為を、「デザイン」として概念づけるのが歴史的にみてこのあたりなのかもしれません。アーツ&クラフツ運動は、ウィリアムモリス()を中心として広がった装飾芸術運動であり、当時の産業革命によって生まれた工業製品へのアンチテーゼとして、中世の手造り仕事への回帰だったようです。しかし、中世の絢爛な装飾とは趣きが異なり、ある一定のモダンさを有したものが多いのも時代との関連性が表れていて興味深いです。展示された数々の工芸品は、家具、壁紙、食器、住宅、装丁など生活の身の回りのもの全般に渡っています。イギリスのフィリップウェブ()、マッキントッシュ()の仕事、ウィーン工房のヨーゼフホフマン()の仕事など時代を代表する人たちの作品が並びます。また年代は少しずれますが、日本の民藝を同列に取り上げたのもこの展示会のユニークなところかもしれません。歴史的な流れからして、朝鮮白磁や木喰仏の展示には少し違和感もありますが、柳宋悦たちが建てた三国荘()の再現が展示の見せ場になっており、生活の中での手仕事品の大切さに目を向けた活動として、日本のアーツ&クラフツを象徴化させています。展示品への興味は見る方によって千差万別だと思いますが、数多く並ぶ中、1点1点の魅力や濃さは意外とすんなりと見てしまったような気もします。しかし、全体を通して見れば、これらの流れが手仕事の大切さばかりでなく、やがてはバウハウスに続く近代化・工業化を肯定的に捉えて、生活の中の「デザイン」の重要性を説くことへ繋がる原点になったことを意味深く感じます。また、なぜ今、この運動が人を惹きつけるのかという観点も興味深いように思います。金融システムの崩壊、大量消費の限界、資源の枯渇、そういう時代において、LOHASやスローライフという人々の生活スタイルの在り方や価値観の変化が、この運動の意識と繋がっているような気がします。手仕事、農業の見直しは、そんな時代の必然性のようにも思います。アーツ&クラフツ運動への視点は、今の時代の鏡なのかもしれません。


「生活と芸術 アーツ&クラフツ展」 ウィリアム・モリスから民芸まで 
ホームページ
2009年1月24日(土)~4月5日(日) ※月曜休
9:00~17:00(入室は16:30迄)
入場料:一般1500円
東京都美術館

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※ウィリアム・モリスの言葉
「役にたたないもの、美しいと思わないものを家に置いてはならない。」



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もっと知りたいウィリアム・モリスとアーツ&クラフツ(東京美術
藤田治彦(著)/1680円/2009年1月刊行


by sora_hikari | 2009-03-01 23:49 | 見て歩き

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