井戸茶碗 @ 根津美術館

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南青山の根津美術館で開催されている「井戸茶碗」展に行ってきました。16世紀頃に朝鮮で作られた器。高麗茶碗と呼ばれる一群の代表的な作風です。この井戸茶碗は、どこの窯で何用に作られたのかは未だに判然としませんが、近年の書籍ではそれは祭器であったとする説もあるようです。しかし、従来の認識としては、無名の陶工が日常の器として作った雑器だったという方が強いでしょうか。茶の湯の世界では、井戸茶碗は特別に賞玩され、珍重されてきました。桃山以前の足利では唐物と呼ばれる中国渡来の天目や青磁に重きが置かれましたが、やがて侘び茶の流れとともに、高麗茶碗が茶会記に多く登場するようになります。茶の世界の権威を嫌った民藝の祖・柳宗悦は、楽茶碗の作為を批判しながらも、このに井戸茶碗に宿る他力の美への見立ての眼力を心から称賛しています。曜変天目茶碗が国宝とされるのは分かり易い。何故ならその妖艶な煌めきは誰にでも目で分かるから。一方の喜左衛門井戸が国宝とされるのは、本来なら分かりづらい美的評価だと思います。いまではあまりに茶の世界で認められている存在であるが故に、何をと思うかもしれません。逆説的な評価ですが、まさにこの変形して染みの出来た不出来な造形を、美しいとすることこそ、日本の侘びという美の認識の凄さだと理解しています。この枯れたような儚さと、滲みでるような色、微妙に変化する釉調に感情移入してしまうことが、井戸茶碗の魅力です。それは日本人の自然を愛でる感覚や清貧を徳とする精神性と繋がっているのかもしれません。前段が長くなりましたが、個人的にも思い入れの強い井戸茶碗の名品を一堂に集めた今回の展示会は、心から待ち遠しく思っていました。全数70点。大井戸、小井戸、青井戸がずらり。図録や写真でしか見たことのなかった名物が隣同士に並んだ様は、なんとも贅沢なことです。ひとつひとつの前に立ち、上から見込みを眺め、横から姿を見つめ、後ろにも回り込んで、というように何とか目に焼き付けようとしてしまいます。ふと周りを見ると同じような方が幾人も見受けられます。やはり井戸茶碗には特別の想いがある方が多いのだなと思える景色です。惜しむらくは、展示の照明が上方からの為、横の様子がやや薄暗いこと、そして高台の写真が添えられていない事は残念に思いました。しかし、それを遥かに超える程の内容の充実ぶりでした。時間があればまた訪れたい展示会です。


井戸茶碗  ~戦国武将が憧れたうつわ~
2013年11月2日~12月15日
10:00~17:00
月曜休館 
入場料:一般1200円
根津美術館 (東京・南青山) ホームページ

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by sora_hikari | 2013-11-16 00:55 | 見て歩き

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